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78.ウサギVSヒトヅマ
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『蛇光さんの味方になるのは嫌だ』
俺の言い放った一言に、蛇光さんは口を閉ざした。笑顔ばっかりだった唇が、今は一直線に結ばれて硬く閉じている。
だから、俺は今なら蛇光さんに勝てる気がした。
「結婚してるのに、他の人のことを気にするのは違うと思う。そんなの蛇光さんの旦那さんにもリカちゃんにも失礼だし……。結婚してるのにリカちゃんをす、好き、なんてダメだと思う」
俯きながら紡いだ言葉が、静かな夜に響く。
でも、俺は何も間違ったことは言っていない。俺の言ったことは当然のことで、誰に聞いたって当たり前だろって同意してもらえることだ。
言ってやったとばかりに顔を上げれば、そこには俺の想像していた通りの蛇光さんがいるはず。落ち込んでいるのか悔しがっているのか、どっちだろう。
勢いよく上げた顔。少しの高揚と初めて成功した反撃に上げる勢いが抑えられなかった顔。
それが固まる。自分でもわかるぐらい、ピタリと俺の時間が止まった。
「慧くんって、見た目通りなんだね」
俺は、女の人を傷つけることに罪悪感がなかったわけじゃない。でも、こんな顔をされるぐらいなら泣いてくれた方がマシだった。
怪我していない方の手を口元に当て、でも漏れる笑い声は消えていなくて。くすくすと楽しそうに笑う姿は、震える蛇光さんの肩の動きでわかる。
俺が傷つけたはずの蛇光さんは、笑っていた。俺の言ったことなんて何も感じないように、俺につけられる傷なんて存在しないように。楽しそうに笑い続ける。
「あたし、別に獅子原さんのこと好きなんて言ってないよ。もしかして慧くんって、好きと嫌いで分けるタイプ?」
「なっ、だって……だって運命だって。さっきリカちゃんのことを運命なんだって言ったから!」
「だからって好きなんて言ってない。運命って言うのは、何て説明すればいいのかな……慧君。あたしは獅子原さんのことを予定していた相手だって言ったの、ちゃんと聞いてた?」
首を傾げて考える姿は綺麗な女の人だと思う。首も手も、足も。全てが細くて華奢な蛇光さんは、守られるべき女の人なんだと思う。
でも、中身は違う。
「あたしは離婚する気なんてない。でも、あたしの隣には主人よりも獅子原さんの方が似合う。だからこれは運命なの。あたしは人に羨ましがられて、憧れられる人生を送るの」
「……は?意味がわかんない、んだけど」
「慧くん、あたしが1番好きなのは妬まれること、僻まれること。それから悔しがられること。綺麗な服を着て素敵な人と一緒に歩いて、みんなからたくさん愛されて。あたしはそういう存在でいたいし、そうなるって前から決めてた。その予定していた生き方に、獅子原さんは使い道があるの」
だからこれは運命なの。
獅子原さんは、あたしをキラキラさせる為に必要なの。
そう言った蛇光さんに、罪悪感なんてない。何も悪いと思ってないし、それが当然だと思ってる。
俺はそれが許せなくて叫ぶ。この人に向かって怒りをぶつける。
「リカちゃんは……っ、あんたの言ってるようなやつじゃない……リカちゃんは、あんたなんかの為にいるわけじゃない!」
あいつは俺のモノだ。
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