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91.そして2問目
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* * *
目が覚める前の、ぼんやりと明るさを感じるあの瞬間が好きだ。本当はまだ寝ていたいのに現実に巻き戻され始めて、でもやっぱり二度寝をしたいと抵抗する時。
いつも起きるのがギリギリな俺は、実際に二度寝なんてしたら遅刻決定なのだけれど。でも、あの寝入るか目覚めるかの狭間は妙に気持ちいい。
けれど、いつまでもそこにはいられない。好きなことばかりをして過ごせる時間は、もう終わった。
「……あれ……ここ、は?」
ゆっくりと開いた瞼の先に見えるのは白い天井だった。 電気がついているのか消えているのかは、ぼやけていて判断がつかない。
「俺、えっと。何してたっけ」
桃ちゃんと美馬さんと会って、2人と昼飯を食べて。それから体調が悪くて、美馬さんと桃ちゃんが仕事に行かなきゃいけなくなって、美馬さんが桃ちゃんに怒って……。
ダメだ、順番がぐちゃぐちゃで、上手く整理がつかない。
雰囲気でここが自分の家だというのはわかる。使い慣れた枕と、いつもと同じ洗剤の匂い。それに混じる香水の匂い。俺の捨てた匂いだ。
ここが家ってことは、いつの間に帰ってきたんだろう。
回らない頭で考え、ぱちぱちと瞬きをしてみれば、随分と目が冴えてきた。
そして、思い出した。
「そうだ。マンションの下であの人に会って、我慢できなくて。確かそれから」
込み上げてきた吐き気を思い出し、胸を押さえる。けれどそこから先は何も起こらず、止めていた息をゆっくりと吐き出した。
「みんなの前で吐いた……んだよな。なんかスッキリしてるもん」
俺は我慢できずに嘔吐した。でも、それは道端にじゃなくて確か……確か。
「慧君、おはよう」
呼びかけにハッと扉の方を見る。するとそこにはリカちゃんがいた。
「気分は?」
「あ。もう平気だけど、え?どうして?」
「どうしてって何が?」
「なんでリカちゃんがここに?え、仕事は?ってかアレはどうなったんだ?桃ちゃんと蛇光さんは?」
あまりにも聞きたいことが多すぎて、思い切り起き上がる。少しだけ頭がくらり、と揺れたけど、案外平気なものだった。
「リカちゃん、これって風邪?でも熱がなくて咳も出ないし、もう平気なんだけど」
「どうだろうね。風邪かもしれないし違うかもしれないし、そもそも病気じゃないのかもしれない」
「何それ。こんな時になぞなぞかよ」
「こんな時だからこそ、だよ慧君。でもまあ顔色も良さそうだし、1日休めば明日は大丈夫だと思う」
ベッドのそばまで歩いてきたリカちゃんが、空いたスペースに腰掛ける。近くなってその姿がよく見えるようになり、俺は気づいた。
リカちゃんの服は汚れてなんかなかった。
「俺、リカちゃんに吐いちゃったよな?あの服は…」
「ああ。あれなら慧君を運んだ後にコーヒーを飲もうとして零して、急いで脱いだからボタンが取れて、シミ抜きに失敗して敗れたから捨てた」
このリカちゃんがそんな失敗なんてするわけがなく、きっと今のは嘘だろう。俺に負担をかけないための優しい嘘だ。
「……悪かった。服と……それから、仕事もまだあるんだろ?」
「 まぁうん、それはそうなんだけどね」
「だよな。じゃあ早く学校に戻らなきゃダメなんだよな」
「そろそろ戻ろうかとは思ってるけど、その前に」
目元にかかっていた前髪をリカちゃんが整えてくれる。より鮮明に見えるようになった先には、少しだけ意地悪く笑う顔があった。
「ねぇ慧君。慧君はどうしたい?」
「どうって。あ、口を濯ぎたい。それから歯も磨きたい」
そう答えると、意地悪だった笑顔が苦笑いに変わった。
「そういう自然体な慧君も大好きなんだけどね。じゃあ聞き方を変えよう。慧君は俺にどうしてほしい?」
どうしてほしいか。
それを聞かれるのは今回で2度目だ。前回の記憶が蘇ってきて目を瞑る。すると、まるで狙っていたかのようなタイミングでインターホンが鳴った。それは俺には、警戒音のように聞こえて……。
「行くな!」
引き止めるために握ったリカちゃんのシャツに皺が寄る。せっかく綺麗なものに着替えたのに、また俺がダメにした。
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