アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
98.こころの有給休暇
-
『今日はここまで』
その言葉が意味するのは、今日は最後までしないってことだ。そういえば、まだ後ろには、ちっとも触れていないような気がする。
ということは、リカちゃんは初めから最後までする気はなかったってことで。だから自分は服を脱ごうともしなかったし、俺にイクのを我慢しろとも言わなかったんだと、今ならわかる。
俺の好きな時に、好きなように出させてくれた。その理由は、今日はここまでしかしない予定だったから。だから、俺の体力がなくなろうが関係なかった。
冷静になればなるほど、恥ずかしくなる。この先のことを考えていたのは、俺だけなんだから。
求められていない事実に、目の前が黒く染まっていく。
「なんで?なん……っ、こんなの絶対にやだ!」
「ちょっ、え、慧君?」
珍しくリカちゃんが焦った声を出したけれど、俺は突き進む。
「だってリカちゃんはイッてない。さっきから俺しか出てない!俺だけなんて変だ!」
イッてないどころか、俺は触れてもない。リカちゃんのモノがどんな状態かも知らない。自分のことばかり気にしていたからだ。
「……っ、なんで。こんな……っ」
リカちゃんの手を振り払った俺は、開放された身体を動かす。出したばかりでも、思ったより楽に動かせた。そこで触れたリカちゃんのモノは、少しだけ反応していて、少しだけ大きくなっていた。さっきの触れ合いで、リカちゃんも興奮した証拠だ。
目の前の暗闇が少しだけ薄くなる。
「リカちゃんだって勃ってるのに……」
「当然。慧君のあんな姿を見せられたら、俺だってこうなるよ」
「それなのに終わり?リカちゃんは、もう俺とはヤりたくないのか?」
「いや。慧君とのセックスなら、本当はいつだって大歓迎」
それなら、どうして。何回か訊ねた言葉を再び投げかけると、リカちゃんは俺の手を握った。下半身に這わせてた方の手も、両方。
両手を包まれ、リカちゃんを見上げると顔が近づいてくる。
「……ん」
ちゅ、と軽く触れて離れる唇。
軽く重なっただけのキスが終わると、リカちゃんの額が俺のそれにコツンと当たる。
額と額が合わさる距離って、かなり近い。見えないぐらい近い距離は、ほぼ無いのと同じだ。
「慧君。せっかくだし、明日はゆっくりデートしよう。2人で美味しいもの食べて、2人で買い物でもして。久しぶりに慧君とデートがしたい」
リカちゃんが喋る度にまつ毛が震える。それは近すぎて目では見えないけれど、微かに伝わる振動でわかった。
リカちゃんのまつ毛が長すぎるからだ。
「楽しいデートのためには、まずは元気にならないとね」
「……別にもう元気だし。休まなくてもデートぐらいできる」
「こら、デートぐらいなんて言わない。俺にとって慧君とのデートは、すごく大事なことだから」
今まで何度もしてきたデートで、覚えてることもあれば忘れてることもある。それなのに、俺とのデートが大事だと言われてしまえば、もう何も言い返せない。
けれどお預けされるのも嫌で、やっぱり言い返したい。
受け入れたい気持ちと、反発したい気持ち。2人の俺が戦う。後者が勝ちかけたその時、リカちゃんが先に口を開いた。
「それに、今の慧君に必要なのは、2人の時間を作ることだと思うよ。心を休める時間が、慧君には必要じゃないかな。今、身体を繋げたって空しくなるだけ」
「──ッ」
全部、見透かされてた。全部。全部リカちゃんにはバレてた。
俺がエッチをすればリカちゃんを繋ぎ止められると思ってることも。そうしなきゃって思って、そうした後に悲しくなることも。
「違う……ちが、う」
ふるふると首を振り、俺は否定をする。エッチしたい気持ちがないわけじゃなくて、本当にしたかったんだって伝える。
10の気持ちのうち、2割ぐらいは本気だった。したくないけど仕方なくじゃなく、ちゃんとエッチしたい気持ちもあったんだって。
醜い本心を知られたら、俺はリカちゃんの隣にはいられない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1192 / 1234