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「慧君はどうしてほしい?」
リカちゃんが繰り返すと、ヒュッと俺の心臓が跳ねる。口が勝手に開いて勝手に閉じて、何かを言おうとしてるのに何を言いたいのか自分でわからない。
感情と思考が上手く合わさらない時、人ってこうなるんだと知った。気持ちだけが先走って頭が回らなくて、でも伝えたくて身体がついて行かなくて。
瞬きをする俺を見て、リカちゃんが苦笑する。
「もし慧君が俺を邪魔だって言うなら、豊の誘いに乗ってやらないこともないけど」
「別に邪魔だなんて言ってない」
「それならこの後は家で映画でも観るってのはどう?確か慧君が観たいって言ってたやつ、レンタル始まったんじゃなかったっけ?」
「いいけど……それってアニメだから、リカちゃんは観ないだろ」
リカちゃんが観る映画は、基本難しい話ばかりだ。しかも洋画がほとんどで、その上、吹き替えじゃないし字幕もナシだから俺にはレベルが高すぎる。
そんなリカちゃんがアニメを観るなんて。しかも9割以上がギャグのB級アニメ……似合わないにも程がある。
そう思った俺は呆れながら言ったのだけれど、あまりにもリカちゃんが優しい顔をしていたから次の瞬間には言い直してしまっていた。
「まあリカちゃんがいいなら、それでいいけど」
「それじゃあ慧君のお許しも貰えたことだし、豊には悪いけど断っておこう」
「お前、本当に美馬さんに悪いと思ってる?」
「いいや全く。一応の気遣いで言ってみたけど、欠片も思ってないな」
はっきりと言い切ったリカちゃんに俺が笑って、それを見たリカちゃんも笑って。久しぶり過ぎる穏やかな空気に時間を忘れてしまいそうになるけれど。
ここに来て蘇ってくるのは、俺たちが場違いだっていう状況だ。さすがに周りも食べ終えたようで、食事中は薄らいでいた注目が再開していた。
問題が1つ解決すれば他が気になるのは当然で。
「……リカちゃん、そろそろ店を出たい」
「もう?せっかく来たんだから、もっと楽しめばいいのに」
「俺にはお前と違って、人並みに羞恥心ってのががあるんだよ!これ以上ここにいたら爆発する」
「慧君が羞恥心を漢字で書けるようになったかは疑問だけど、慧君がいなくなると俺が困るから出ようか」
微笑みとは違う、いつもの意地悪な笑い方をしたリカちゃんが荷物を持って立ち上がろうとする。でもその途中で俺を見て、口元を押さえた。
隠した手の中にあるのは、クスクスと笑う唇だ。
「あー……慧君。慧君はどんな姿でも愛くるしいんだけど、さすがに鼻の頭にソースまで付けたら駄目だと思う。愛くるしいのが限界値を越える」
「は?ソース?鼻の頭?」
「ここ。パスタのソースが飛んで、美味しそうなお鼻になってる。慧君は俺の可愛いウサギさんであって、食べ物ではないと思うんだけど?」
自分の鼻をつん、と突いたリカちゃんが教えてくれたこと。それは俺がリカちゃんのウサギってことでもなく、俺が食べ物だってことでもなく、鼻の頭にソースがついているってことだった。
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