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114.あたしの、なかま。
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2人だけ。真正面から向かい合う俺たちは、他の人から見たら仲良く見えるのかもしれない。けれど実際の俺と蛇光さんの間にあるのは牽制と威嚇と、それから隠しきれない『嫌い』という感情だ。
もうこの人からは、俺に対するプラスの気持ちは伝わってこない。リカちゃんや桃ちゃんに見せるのとは全く違う顔と声で、この人は俺の前に立つ。
蛇光さんは俺を対等とは思ってくれない。
「慧くんって鈍そうだから、今後の参考に教えてあげる。あたしね、その人の行動パターンを把握するのが得意なのよね。いつも何時に家を出て、何時に帰ってくるか。休みの日は何時ぐらいに出かけて、いつもどんなことをするか。どんな人と付き合いがあって、どんな女が好きで、どんな言葉に弱いのか」
滑りの良さそうな髪が、蛇光さんの指からスルスルと流れる。それは俺の目の前で揺れて、まるで今の話が楽しいって笑ってるみたいに見えた。
実際は違うのに。この人がしているのは、吐き気がするほど胸糞の悪い話なのに。
「あたしが頼めば教えてくれるんだもん。本人だったり、周りの友達だったり、近所に住んでるオジサンだったり……それから、居候を同居だって言い張る、可哀想な親戚の男の子だったり」
最後の一言で俺を見た蛇光さんの目が、ギラリと光った気がした。名前を出さなくても、俺のことだってわかるような言い方に身体の芯が震える。
こんなにも小柄でか弱そうな人が、どうしてこんなにも堂々とできるのだろう。いくら俺をずっと下に見下していても、力で適うわけがないのに。それなのに蛇光さんは、全く怯む様子を見せない。
「でも今回はちょっと苦労したんだけどね。だって獅子原さん本人は何も教えてくれないし、逃げるの上手いし」
「……それ、どういう意味」
「基本は車移動で偶然を装うのも無理。家を出る時間も帰ってくる時間もバラバラ。なかなか会えなくて苛立ってたら、ちょうどいい餌が目の前にいたから……本当、慧くんのおかげで助かったなぁ」
揺れていた髪が止まって、その奥から指が伸びてくる。白くて細い蛇光さんの指が、俺の目の前で止まった。
真っ直ぐに俺を指さした彼女が言う。
「ねぇ慧くん、気づいてた?あたし、初めは慧くん狙いだったって。だから最初に慧くんの行動パターンを掴んで、いつでも慧くんと会えるよう時間を合わせてたって」
「知らない。そんなの、俺は知らない」
「やっぱり鈍いなぁ……。でもね、慧くんと話してるうちに、この子は無理だと思って獅子原さんに変えたんだよね。慧くんみたいに隙のある男じゃ、あたしの方にもリスクがあるし」
「リスクって、何だよ。俺の何が無理で、何がダメだって言うんだよ」
「そういうところ。慧くんって、自分のこと本当に分かってないね」
風呂上がりだから寒いんじゃなく、蛇光さんの視線と声のせいで身体が冷えていく。そうして冷たくなった手を握りしめると、肌に触れた爪の感覚が伝わってきた。
聞きたくなくても、知りたくなくても、これは現実だ。この人が初めて見せる本当の姿は、俺に見たくも知りたくもなかった全てを告げる。
「慧くんがいれば、そこに獅子原さんも現れる。慧くんが困れば、獅子原さんは慧くんを助ける。慧くんが頼めば、彼は絶対に断れない」
にっこりと笑った蛇光さんが続ける。
「隙のない人につけ込むには、隙のある奴を利用するのが1番手っ取り早い。あたしの最大の協力者は、慧くんだったから。すっごく役に立ってくれる仲間がいてくれて、本当に助かったなぁ」
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