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115.大嫌い
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いつもタイミングの良いところで蛇光さんが現れる。そしていつも俺はイライラして、いつも不安になって、いつもいつも悔しくなって悲しくなる。
いつだって良いところを奪うのは蛇光さんで、俺は言いたいことが上手く言えなくて。それをリカちゃんに八つ当たりして気を紛らわせる。
リカちゃんが許してくれる度に、自分はなんてダメなんだろうって思い知らされる。
最近は、何かとタイミング悪いなぁって。なんでこんなに上手くいかないんだろうって、考えてばかりだった。
でもそれが全部仕組まれたことだったら。タイミングが悪かったんじゃなく、タイミングを合わせられていたとしたら。
上手くいかないんじゃなく、上手くいくはずがなかったとしたら。
馬鹿正直にその偶然を受け入れてきた俺は、蛇光さんに利用されていた。この人が予想した通りの反応をして、この人の計画が上手くいくよう使われていた。
この人の吐く嘘に、俺はいつも負けてた。
「蛇光さんが追いかけてたのは俺?」
廊下の地面を眺めながら確認すると、蛇光さんの靴の先が見えた。そこから続く足首は、簡単に折れてしまいそうなほど細い。
「初めはね。慧くんと獅子原さんを比べた時に、楽なのは慧くんだなと思ったから」
「楽って、どういうこと?」
「慧くんはまだ若いから、先のことまで考えないで済むしょ?もし本気になられて将来の話とかされたら困るし……ってこの話、前にも言ったよね」
「あんたの言ってること、意味わかんない。将来の話とか、先のこととか。なんでその話をしたら困るのかが、わかんないんだけど」
「それ。そういうところが、本当に無理なの」
細い足首を見つめる俺の頭上で、蛇光さんは聞いてもいないのに教えてくれた。
「慧くんって自分だけじゃないと満足できないタイプでしょ。あたし束縛とか独占とか、自分の行動を制御されること大嫌いなんだよね」
だから俺はナシなんだって蛇光さんは言う。
「慧くんって、ずっと不戦勝を願うタイプでしょ。そういうのって、戦っても自分が勝つ自信がないやつの逃げ道なだけじゃない。あたしは、唯一なんて要らない。他があっての1番が欲しい」
「別に俺は、誰かと競い合ったりしたくないし。他なんてどうでもいい、だけ」
「どうでもいいなら放っておけばいいのに。それなのに、あたしを牽制するのは矛盾してるじゃない。本当に気にしないなら、あたしが何したって平気でしょ」
「だから俺はっ……!」
「慧くん、そういうところが子供っぽいんだよ。俺は我慢してるんだって空気出すくせに、すぐ顔に出す。嫌って言えないだけなのに、気づいてほしそうにする」
軽く鼻で笑った蛇光さんは、後ろ手に組んだ腕を揺らした。華奢な肩が目の前で左右に動く様子は、まるで踊っているみたいに見える。
こんな状況でこんな話をしてるのに。俺がこんな風にイライラしているのに、蛇光さんの機嫌は良い。
楽しそうなその顔が、本当に嫌いだ。声も仕草も全部が嫌いだ。
「ねぇ、慧くんってよくそれで獅子原さんと一緒に過ごせるね。もしかして獅子原さん相手にも、そうやって構ってキャラ演じてるの?」
「そんなの俺はしない。俺は、そんなこと思ってない」
「思ってなくても行動に出てるなら一緒でしょ。認めたらいいのに。その方が潔くて、あたし好きだなぁ」
ふふっと笑った蛇光さんの声が、頭に響く。俺は大きく頭を振って追い出すと、やっと顔を上げることができた。
大きな目。長い睫毛。小さな鼻にプルプルの唇。きっと誰が見ても美人なんだろうけれど、俺はその顔を睨みつける。
「蛇光さんになんか好かれなくてもいい。俺は、あんたみたいな女は大嫌いだ」
俺の目の前で美人が崩れる。眉間に深く皺を刻み、眉を釣り上げ唇を歪ませて。
「蛇光さんこそ、こんなとこで俺に構ってる場合じゃないんじゃねぇの?だってあんた、まだリカちゃんの1番になれてないくせに」
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