アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
117.プレゼント
-
「あたしが嫌いなのは自分は可哀想だと思い込んでるやつ、すぐ人のせいにするやつ、理想だけは高くて口ばっかりのやつ」
俺の目の前でクルクル回る蛇光さんの指。それが綺麗に止まって指すのは、俺。
「男の子でここまで当てはまるのも珍しいんだけどね。でも慧くんって、なぁんか鼻につくんだよね。変なの。慧くんって本当に男の子?」
まあ、そんな事どうでもいいけど。
そこで一旦区切りを付けた蛇光さんは、手に持っていたものを俺に押し付けてきた。
それは小さな紙袋。俺でも知っている高級ブランドのロゴが入った袋を、蛇光さんが俺へと差し出す。
「なにこれ」
「見ればわかるでしょ。プレゼント」
「え、こんなの貰っても困る」
「勘違いしないで。慧くんにあげるわけじゃないから」
わざわざ家に持ってきたプレゼント。俺宛じゃないなら送り主は1人しかいない。今は風呂に入っていて、そろそろ出てくる『あいつ』だけ。
そうだ。この人は初めからリカちゃんに用があるって言っていたじゃないか。だとしても、俺はこれを受け取る気にはなれなかった。
「リカちゃんは……そういうの受け取らないから。いきなりそんなの貰っても困るだろうし、だから受け取れない」
「じゃあ本人に聞くから呼んでよ。本人に直接渡すなら問題ないでしょ」
「問題だらけだろ。だいたい、なんで蛇光さんがリカちゃんにプレゼントなんか渡すんだよ。あんた結婚してんだろ?」
その紙袋の中身が何かなんて、俺は知らない。知ろうとも思わないし、知りたくもない。でも蛇光さんは譲らなくて、ぐいぐいと押してくる。
「慧くんが吐いて汚しちゃったネクタイ、あれってここのブランドの物でしょ?せっかく良い物を使ってたのに、慧くんが汚しちゃったからもう使えないじゃない?」
「それは……」
「それに。獅子原さんは、間違っても慧くんに弁償しろだなんて言わないだろうし。じゃあ私がプレゼントしちゃおうかなって」
俺が渡した数千円のネクタイと、蛇光さんが持ってきたブランド物のネクタイ。高価なネクタイを俺に汚されたリカちゃんは、どんな気持ちで俺からのネクタイを受け取ったんだろう。
ありがとうと笑っていたあの顔は、本物の笑顔だったんだろうか?
代わりがあんな安いもので、本当に良かったんだろうか?
本心では要らないと思っていて、でも俺のことを思って合わせてくれていたとしたら。ああして色を悩むフリをして、本当は使う気なんてなかったとしたら……。
今日が何の為にあったのかわからない。なんでリカちゃんが俺を連れ出して、一緒に居たのかわからない。
今日見せてくれた笑顔が、本物だったのかわからなくなる。
押し付けられた紙袋は、まるで鋭いナイフみたいだ。あと少しでも前に進めば、俺の身体を貫いて決定打を刺してきそうだ。
「……俺は、それを受け取れない」
わかってる。
大事なのは金額じゃないって。リカちゃんはそんなこと気にしないし、そんなことで人を判断するようなやつじゃないって。
でも、見えないものに怯える俺にとって、こうして形として現れてしまえば、それはとても大きな意味に思えた。だから頑なに拒んで、ずっと拒んでもっと拒んで。嫌だ嫌だって言い張って、必死に抵抗する。押し付けられた紙袋を振り払い、それが地面に転がっても見ないふりをする。
「そんなの受け取らない。俺が汚したからって、あんたには関係ない。もう帰れ……っ、俺はあんたが大嫌いなんだよ!」
激しく拒絶した俺に向けられたのは、憎悪と嫌悪と、それから目いっぱいの悪意が込められた彼女の舌打ちだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1211 / 1234