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127.繋がる途切れる
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強引に繋がったとしても、その快感を知っている身体は、無理な動きにさえ反応する。
次第に馴染んでいく慧の中に、俺のそれが喜んで大きさを増した。情けないと嘲笑しても、目指す場所を見つけた欲望は止まらない、
けれど心は逃げ出そうとする。それを欲が押さえつける。耐えきれなくて息を吐けば、その熱さに我ながら驚いた。
「あっ……や、アッ、はぁ…………んんっ、ンぁ」
「け、い。慧…………は、っく」
「ひ……やだ、や…………リカちゃ……リカちゃん」
「うん。ここにちゃんと……、傍にいるから」
腰を上下に揺らし、肌を打ち付け熱を交わす。お互いに名前を呼んではいても視線は合わず、伸ばした手は受け入れられることはない。
それぞれの身体を使っての自慰。限りなくそれに近いセックスに、心が粉々に砕けそうだ。
「はぁ……ァッ、リカちゃん、リカちゃ……んッ」
眇めた瞳の先で慧を見れば、嬌声を殺そうと唇を噛み締めていた。これ以上は傷を負わせたくなくて、強引に慧の腕を引く。
「──やっ、ァ……アァっ、んあッ」
すると弱いところを突いてしまったらしく、慧の口が大きく開く。俺はすかさず慧の口に中指と薬指を突き入れた。
それは偶然にも左手だった。目に見える繋がりを纏った左指だった。
「唇。そんなに噛むと痛いから……ッ、だから、噛むなら俺の指を噛んで」
「ふ、ぁ変態……っ、かよ。気持ち悪い」
「変態でも気持ち悪くても、何でもいいよ。慧が傷つかなくて済むなら、もう何でもいい」
心の傷は代わってやれない。それならせめて身体の傷を俺が引き受ける。そう告げるために指を口内へ進めると、慧は俺を睨みつけた。そして。
「…………くっ」
ぎりり、と歯が当たる。指の関節を滑っていった慧の歯が『ある物』に引っかかって止まった。
精一杯の想いを込めた指輪に。
どんなときも外さない俺と、最近では全く付けない慧との繋がりの証に。
慧の歯が当たり、ガチリ、と鈍くも鋭くもない音が鳴る。
「うっ、ぐ…………は、んんっ、んッ」
指輪に触れたと気づいた慧が噛む力を強める。金属音がする度に、少しずつ削れていっている気がした。
まるで2人の繋がりを途絶えさせるかのように、慧は噛み続ける。容赦なく、躊躇いもなく。
指輪を身代わりにした指は、噛まれても痛くない。でも心は痛い。
いつの間にか蕩けた最奥を穿つ下肢は、痛くない。程よい締めつけに酔いしれそうになる。
けれど、どうしても心が痛い。
痛くて痛くて、見えない血が心臓から流れ落ちて、大きな水溜まりを作ってしまうんじゃないだろうか。
「うぅ……う、ふっ……ん」
くぐもった声。肌を弾く音。それから、2人の先走りが合わさった水音。静まり返っていた部屋が、たくさんの音に包まれる。
高まっていく体温と、止まらない吐息に全身が惚ける。でもその奥で、ずっと金属の鳴る音が頭に響く。
そして、やがてその時は来た。
「ん、や……ァ、やだっ、やだ、や──ぁ、んあぁッ」
全てを搾り取る柔壁の動きに飲み込まれた俺のモノは、絶頂を迎えた慧の後を追うようにして奥で爆ぜた。
いつものように中で欲を吐き出し、いつものように受け止めてもらえた『いつものセックス』が終わる。
でもこれは繋がるためのものではなく、途切れるためのものだったのかもしれない。
事後の甘さの欠片もなく、睦言の代わりに落とされたのは、最強にして最悪の言葉の刃。
「もう…………やだ。俺もう、やだ」
俺に跨ったまま。俺のモノを受け入れたまま。慧が紡ぐ。
「もうやだ」
俺の好きな声で、俺の好きな人が告げる。
「もうやだ……リカちゃんといると苦しい。リカちゃんといると苦しくて辛くて……っ、リカちゃんといると……どんどん自分が嫌いになる」
それは今まで何度も言われてきた言葉であり、慧からだけは聞きたくなかった言葉だった。
頭が考えることを拒否した時、人は何も言えなくなることを初めて知った。けれどその代償はあまりにも大きすぎた。
慧に噛まれて傷だらけになった指輪が2人の関係そのもののように思えて、これ以上傷つかないよう両手で包み隠してみる。
大事なものを隠すには、俺の手はあまりにも脆弱だ。
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