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131. VSヒトヅマ vol.2
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瞼の裏にまで届きそうな桃の高笑いに、思わず顔を顰める。恐ろしいほど静かな駐車場では、オカマの笑い声は日頃の数倍は大きな声に聞こえた。
容赦ない響音に胸糞の悪い甘い香りも相まって、俺の機嫌は底辺を突き破って降下していく。
「桃、お前は笑いすぎ」
「だあって。こーんなに自信満々に擦り寄って、あーんなにドヤ顔で誘ったのに木っ端微塵に吹き飛ばされるなんて……あたしぐらいは笑ってあげなきゃ、あまりにも無様で可哀想じゃない」
「傷を抉るオカマって。お前は鬼以上だな」
「オネェはね、弱い者には優しいけれど非道なやつには容赦ないのよ。スーパーヒーローなの」
俺と蛇光の会話を遮った桃が、後部座席へと触れる。クイ、と顎で示した意味は「ドアロックを開けろ」の合図だろう。
「さぁ、リカちゃん。くだらない話が終わったなら、早く行きましょ。今日も張り切ってお仕事頑張らなきゃね!」
「お前、本気で俺に送らせるつもりなのか?」
「もちろん。安心なさい、助手席には座らないであげる」
「誰が座らせるか。ここは専用席だから」
車のロックを解除し、俺たちはそれに乗り込もうとした。けれど想像以上に早く意識を取り戻した蛇光に、邪魔されてしまう。
進もうとした先を遮るように立たれるだけでも苛立つのに、引き止める為に服を掴まれる。さっき払った手が、さらに強く縋り付いた。
自分の中で、より自制心が崩れていくのを感じた。正確には既に崩れたそれを、踏みつけてしまった感覚だ。
「あの!!えーっと……念の為の確認なんですけど。獅子原さんと、大熊さんで間違いないですよね?」
今さら何の確認だと言いかけた俺よりも先に、まだ外にいた桃が答える。
「それ以外に誰に見えるのよ。言っておくけど、あたしみたいに爽やかな弁護士もそういなければ、リカみたいに外見だけは特上の男もいないんだからね」
揶揄まじりの返答にオカマへと視線を向けると、ニヤニヤと弧を描いた目と合う。俺に送らせると決めているからか、時間の許す限り蛇光で遊ぼうとしている魂胆が見え見えだ。
桃のこういうところは、学生の時から変わらない。
正義感が強くて他人に甘いくせに、嫌いなものには容赦ない。その上、自分に害がないと分かったら、途端に観客に回って楽しめるだけ楽しむ。
ちっとも爽やかでない悪友に、自然とため息が出た。
「桃太郎。その自己主張こそ虚しくないか?」
「うるっさいわね、名前で呼ぶなクソ淫行教師。あたしは親切丁寧、清廉潔白な有能弁護士なの。大和撫子とは、あたしのことよ」
「鞭打ちが得意な大和撫子。それは世も末だな」
「だから言わないでってば!!もしも歩ちゃんに知られたら…………って、まさか言ってないわよね?!」
「さあ?どうかな。よく覚えてないなぁ」
「その顔!その顔は絶対に言ったでしょ?!ねぇ、なんで?!なんで歩ちゃんに言っちゃったの?!どう考えても、歩ちゃんだけには言っちゃダメでしょ!バカなの?!」
俺を睨みつけ吠える桃に笑みを返し、今度こそ車に乗ろうとした。それをまたしても止めたのは、やはりこの女で。
服を掴んでいた手が俺の腕に回り、両手で抱きつく形に変わる。強引に引き寄せられた肌に、布地越しの柔らかい胸が触れる。望んでもいない温もりを感じ、俺の口から本音が零れ落ちた。
「だからさぁ……寄せて上げた脂肪の塊に、魅力なんてないんだってば。なんで朝からセクハラ受けなきゃなんねぇんだよ……マジで萎える」
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