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リカちゃんがタバコに火を点け深く吸い込む。
紫煙が上がるそれを墓石に置き、手を合わせた。
「……このタバコ。星一が俺に教えてくれたんだよ。あいつ優等生のくせによく屋上で一服してた」
もう一本火をつけ、今度は自分が吸う。
「…10年振りだな。やっと、やっとお前に会いに来れた」
「やっと?」
俺の問いかけにリカちゃんは黙ったまま微かに笑うだけで答えてくれない。
「こうやってお前とタバコ吸ってくだらない話するの嫌いじゃなかったよ」
懐かしむようなその瞳が切なく揺れる。
星兄ちゃんを失って悲しかったのは俺だけじゃない。
リカちゃんもきっと悲しくて寂しかったんだ。
「ほら。お前の大好きな慧だよ。今は俺の生徒なんだ。
お前と違ってバカだけど…生意気なのは似てるかな」
俺を見るその目は儚く、それでいて優しい。
「星一。俺、今英語の先生してるんだ。驚くだろ?『日本から出るつもりないから英語なんて必要ない』って言ってた俺がだぞ」
「リカちゃん…」
「お前の夢、叶えてやれたかな。まだお前の母親は見つけてねぇけど…きっと見つけるから待ってろよ」
リカちゃん。
あの日なんで英語の先生になったか聞いた俺に「忘れた」って言ったよな。
それが、理由だったんだ。
星兄ちゃんの夢を叶える為だったんだ。
「慧。お前の母親も英語の教師だって知ってた?
だから星一は教師になるって言ってた」
「知らない」
「やっぱり。格好付けのあいつらしいな」
知らない。俺は何も知らない。
星兄ちゃんの事も母さんの事も、リカちゃんの事も。
「あの事故の日、星一が俺に言ったんだよ。後は頼むって。だから俺はあいつが大切にしていたお前を守らないといけない」
「星兄ちゃんが…?」
「それなのに気づけば目で追ってた。退屈そうなその顔を笑顔で一杯にしてやりたいと思った。
お前の担任になった時も、隣に住んでるって知った時も…これは運命だと思ったんだよ。
星一が俺にチャンスをくれたって」
苦しい。心臓がドクドクと脈打つ。
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