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「じゃあまた」
駅前に着き、別れの時間がやってきた。
『また』と言ったのは無意識だろうが少し嬉しい。
こんなことで喜ぶなんて自分が自分じゃないみたいだ。
「はい。今度はもっとしましょうね」
「もっと?!」
「はっ…真っ赤。ヤラシイ想像しないでくださいよ」
からかうように桃さんの鼻をつまんでみた。
顔を振って取ろうとする仕草が幼くて笑みが零れる。
そろそろ離れないと…離せなくなってしまう。
このまま連れて帰りたい気持ちが膨らんで溢れてしまいそうだ。
まだ足りないけど我慢しようと思った時だった。
「桃?」
聞いたことのない声。俺の知らない声。
けれど桃さんは大げさな程に身体をビクつかせる。
「桃」
今度は確かに、はっきりとした声で呼ぶ。
俺たちから少し離れた距離に立つ人物。
「……直」
「久しぶり、だね」
俺よりも小さく、俺よりも大人で
「すぐに桃だって気づいたよ」
俺よりも桃さんを知っているであろう人。
「元気?って聞くのは変、かな」
なんだか意味深な言葉に嫌な予感がした。
「………いや。元気にしてるよ」
どこか歯切れの悪い桃さんの声に、その予感は間違っていないんだと知る。
「良かった。えっと……お知り合い?」
彼の目が俺に向く。
大きくて柔らかい瞳。可愛らしい顔立ち。
バイト終わりでラフな格好の俺と違って、綺麗な服を着ていい匂いを漂わせる人。
俺とは全く違う造りの
俺とは全く違う雰囲気の人。
「初めまして。竹虎直です。……桃の、弟くん?」
あぁ…この人だって直感する。
この人が、桃さんを縛る人。
きっと…恋人だった人。
「いえ。弟じゃありません」
竹虎、直。竹虎直、竹虎直。
「俺は……獅子原歩です。桃さんに片思いしてます」
名前負けを気にしたわけじゃない。
牽制したかったわけじゃない。
ただ……ただ強がっていたいだけ。
驚いた竹虎さんの目が闇色に染まる。
けれどすぐに、ふわっと笑って消えた。
「そう。イケメンに好かれるなんて桃はさすがだね!」
ニコニコと屈託のない笑顔に、言いようのない悔しさが募って……自然と手は伸びていた。
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