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朝起きたら既に桃さんの姿はなかった。
桃さんを連れて帰った後は別々に風呂に入り、もちろん別々に寝た。
たいした会話…どころか全く話してない。
一言小さく「おやすみ」と言った彼の声がまだ頭に残っている。
何も聞けない俺と何も言わない桃さん。
言えないんじゃなく言わない。
聞かないんじゃなく聞けない。
その差は大きい。
寝床代わりにしていたソファーの上には綺麗に畳まれたタオルケット。
テーブルの上には、これまた綺麗な字で書かれた置き手紙がある。
決められた時間に学校へ行く俺と違って毎日忙しく仕事に追われているらしい桃さん。
そんな中、半ば強引に連れてこられたとは言え謝りに来てくれた。
そんな彼を俺はガキくさい理由で引き留めてしまった。
「……自分では大人な方だと思ってたんだけどな」
まるでテンプレートのように型ばった内容の手紙をグシャグシャにした後、捨てようとして手が止まる。
握りかけた手のひらはそれ以上動くことなくもう一度自室へ。
全てから隠すようにお気に入りの本の最終ページに挟んだ。
ハッピーエンドは嘘くさくて好きじゃない。
この物語も最後は別々の道を選び別れる。
現実なんてそんなもんだ。
「本屋、寄って帰ろ」
背表紙を見つめ、そっと口を寄せてみた。
実物の彼とは違う冷たく固い質感に違和感に余計切なくなって自嘲した。
こんなキザな行動をしたとしてもこの本の結末は変わらない。
変わらないけれど少しでも報われればいい。
本を元の場所じゃなく奥の奥へ隠すように直す。
いつもより念入りに支度を済ませ、いつもより早く家を出る。
開けた玄関から見えた空は高く青く澄んで、目眩がしそうだった。
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