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10年。
日数にすれば3650日。
時間にすれば…途方もないほど長い。
その壁は容易く越えられないことはわかっていた。
俺の知らない、たくさんの経験を経て今のあの人が出来上がっている。
そんなことわかっている。
全てを知りたいなんて思ってないし知ったところで何か変わるとも思えない。
知らなくていい事もあれば知るべき事もある。
そして、目の前の男がその鍵を握っているのは明らかだ。
花束をオマケしてくれた竹虎さんに誘われ、俺たちは近場のカフェに来ていた。
「獅子原くんは何歳なんだっけ?」
にこやかにストローを掴んで笑う。
竹虎さんが頼んだのはミルクティー。ガムシロ3つとミルクが1つがその横に並んでいる。
「今年で17歳です」
かたや俺はブラックのアイスコーヒー。
本当は飲めないけど…意地と見栄で頼んだ。
苦い。すっげぇ苦い。
兄貴がよく飲んでるけれど、よくこんなん飲めると思う。タバコの苦さとは違う。
俺は1口目で既に格好つけたことを内心後悔した。
「はい、どーぞ」
目の前に置かれたのはガムシロ2つとミルク1つ。
「コーヒーってすっごい苦く淹れるお店あるんだよね。
だから僕初めてのところでは絶対に紅茶なんだ」
なんだよこの敗北感…。
兄貴に言い負かされた時とは全く違う。それよりも遥かにキツい。
相手に悪意がないから1人モヤモヤしてる自分がバカみたいだ。
「別に……俺、ブラックしか飲まないんで」
返した言葉に竹虎さんは口元だけで笑った。
全てお見通しなんだろう。それなのに俺の見栄に気づいていないフリをしてくれる。
もうこの時点で勝負は俺の劣勢だ。
半袖の俺に長袖の竹虎さん。そういう点でも自分がまだまだ子供だと思うのは、俺の被害妄想かもしれない。
1つ気になりだしたら色々な事が悪く思えてきて
例えば何の手入れもしていない髪とか。
ラフ過ぎる服や安物の鞄も。
全部……そう、全部が嫌になる。
自信を持てと兄貴は言うけれど、俺には出来ない。
誇れるものなんて何も無い。
どんどん思考が落ちていき、それをごまかすように飲んだコーヒーが余計に苦く感じた。
「でね、話…なんだけど」
急にトーンの落とされた声。
きっと楽しくない話が始まるんだろう。
例えば、あの人は僕のものだ、とか?
それを言われてどうだっつー話だけどな。
「桃のこと、なんだけど…」
さぁ来い。
組んでいた足を組み替え、俺は目の前の男を見た。
2人の視線が交差する。
ひた隠しにしている緊張に気づかれないよう平然を装う。
「なんかオカマっていうより、ただの変態じゃない?」
「は?」
「この前も『待って!ダメよ!』なんて叫んで…
あいつ公衆の面前とか気にしないのかな?」
思いもよらないその言葉に握った手から力が一気に抜けた。
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