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足が重たくて…でも心はもっと重たい。
会いたくて顔が見たくて
でも会いたくなくて顔なんて見たくない。
なんて矛盾しているんだろう。
1度だけ訪れた駅に再び立つ。
今日はあの人の予定なんて知らない。
土曜日だから休みなのかもしれない。
けれど、なんとなくここに来た。
居ても立っても居られないのは、まだまだ俺がガキで自信が無いからなんだ。
会いたくない。
明日なら普通でいられるから。
何も知らない顔していつもの俺を演じるから。
きっと今会うと俺はあんたを傷つけてしまう。
言いようの無い不安をあんたにぶつけてしまう。
「歩ちゃん?」
男にしては高く鼻にかかるかかる声。
ぼんやりと道に突っ立ってた俺の名前を呼ぶのは1番会いたくて、1番会いたくなかった人。
「なんで…いるんすか」
「え?それはこっちの台詞なんだけど」
桃さんは不思議そうに俺を見た。
その手には膨らんだ鞄と仕事の資料でも入っているのだろうか、重たそうな紙袋。
ほら。
適当な服を着て中身のほとんど入ってない鞄を持つ俺とは違う。
どうしたら俺はあんたに近づけるんだろう。
そんな事ばかりが頭を巡って、気づかないうちに言葉にしてしまう。
「どうして」
どうしてあんたは俺を信じてくれないんですか。
そう聞けたのなら…どんなに楽なんだろう。
でも聞けなくて言いかけた口を閉じた。
桃さんは眉を寄せ、ゆっくりと俺に近づいてくる。
ゆっくり、一定の距離を開けるくせに近づいてくる。
「歩ちゃん?なんか変よ?」
猫みたいに少し上がった目を瞬かせ、俺の様子を伺う。
俺のことを気にかけてくれるのが嬉しい。
そういう事するから俺は期待してしまうんだ。
「桃さん………腹、減りました」
「え?!」
「なんか食わしてくださいよ」
桃さんの手から荷物を奪い、俺は歩き出した。
振り返って見た桃さんは驚いた後、苦笑いをしながら俺を追いかけてくれる。
まだ答えはいらない。
最後の瞬間まで俺は諦められない。
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