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スーツ姿の自分とラフな格好の歩ちゃん。
馴染みの洋食屋に入り、空いている席に向かい合って座る。
目の前の歩ちゃんはメニュー表に視線を落としてこちらを見ない。
良かった、と思った。
あんな別れ方をしてしまって次会った時にどうするべきか悩んでいた。
本当は明日会うはずだったけれど、みんなの前で変なことを言われる前に何とかしたかったのも事実だ。
「桃さんは決まってます?」
今日もいつも通りやる気の無さそうな声にダルそうな態度。それなのに急に男らしくなるのは反則だ。
ふと歩ちゃんの口元に目がいく。
あたし…キス、しちゃったのよね。
あの日触れた唇は温かかった。
少し赤みが強くて薄い唇。
男にしては綺麗な肌、冷たい目、長く骨ばった指。
順に見ていき…照れた。
「桃さん?」
だいたい高校生のくせに路チューとか生意気よ。
なんなの、あの慣れたチューは!!
今まで結構な数こなしてきたのがバレバレなのよ…腹立つったらありゃしない!!
「桃さん、聞いてます?」
…腹立つ?
なんで?
あ、そうよ。高校生のくせに生意気だからよ。
そう、そうに決まって…
「桃さんってば!!」
目の前どアップに現れたのは歩ちゃんのお顔。
やっぱり歩ちゃんには泣きぼくろ無いのね…って違う!
眉間に皺を寄せてあたしを覗きこむ歩ちゃん。
あまりの近さに身体を仰け反らせ距離をとる。
「ち、近いわよ!!」
「何回話しかけても無視するからでしょ。
人の顔見つめて惚けてんじゃねぇよ変態」
「惚けてないわ!考えてたのよっ!」
「見つめてたのは認めんすね」
……く、悔しい。
10歳も年下に口で敵わない自分が情けない。
こんなに翻弄されてる自分なんて知らない。
「この店何が美味いか聞こうとしただけなんですけど」
またメニューに視線を落とした歩ちゃん。
強引な性格の癖に意外と優柔不断…なところがあるらしい。
「………オムライス」
「へ?」
「ここはオムライスがおすすめなの」
26歳にもなってオムライスを勧めるなんて子供っぽいだろうか?もっと気の利いたものを勧めるべきだったかもしれない。
また鼻で笑われるに違いない。
そう思った。……それなのに。
「そっか。うん、覚えた」
歩ちゃんは数回頷き、小さく笑う。
「また桃さんのこと知れた。桃さんのオススメの店でオススメの料理を食べれて嬉しい」
この子は…本気であたしを好き、なんだろう。
こんな醜くて汚くて
弱くて卑怯なあたしなんかを好きなんだ。
一途過ぎる気持ちに心が揺らぐ。
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