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「全くわかんねぇ。あんたも、あの人も全然わかんねぇし…わかってたまるか」
「なら聞くなよ!無理に入って来ようとすんな!」
睨み返せばより一層歩ちゃんの視線は鋭くなる。
握られたままの腕が痛くて、振りほどこうと躍起になるあたしを鼻で笑って歩ちゃんは更に力を込めた。
「放せよ。もう話は終わりだろ?」
「何また逃げようとしてんすか。
大体あんたは根本的に間違ってんだよ」
「お前に何がわかる?
高校生のくせに知ったような口聞くな!」
その高校生に必死になってるのは誰だ。
その高校生を振りほどけないのは誰だ。
「わかんねぇから聞いてんだろうが。無理に入って来ようとすんなって言うけどさ、嫌なら本気で嫌がれよ。本気で逃げてみせろよ」
「…っ、クソ!放せ!!」
「嫌だ。逃げたいならまた殴ればいい。手が使えないなら蹴ればいいだろ。こうやって押しかけても無視すればいい」
「させねぇのはそっちだろ!!」
「だから本気で来いつってんだよ。本気で嫌がられなきゃ俺だって諦めてやれねぇ」
ベンチに置かれていた缶が転がり、中から殆ど飲んでいなかった残りが溢れる。
それが砂に吸い込まれていくようにあたしの意識もどんどん吸い込まれていく。
目の前に迫る漆黒の瞳に。
「……ちゃんと俺のことを見てよ。今目の前にいるのはあの人じゃない」
弱々しい言葉とは逆に腕を掴む力は強い。
「俺なんだよ。あの人とは顔も声も全部違う。
あの人みたいに俺はならない。なんでわかんねぇんだよ」
歩ちゃんは泣いてなんかない。縋るような目でもない。
それなのに記憶がフラッシュバックする。
あの日の直とかぶってしまう。
「桃さん、」
「っ!呼ぶな!!俺を呼ぶな…!」
「桃さん」
「離せっ!見るなよ!そんな目で見るな……っ」
「桃」
「やめ、」
「やめない。絶対にやめない」
2つの影が近づき重なる。
「やめろ」と叫んだはずの声は力でねじ伏せられ、喉の奥に消えてしまう。
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