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ふうっと息を吐いて前を向く。
踏み出した1歩から全てが変わる気がした。
「いらっしゃいま……、桃………。来てくれたんだ」
花に囲まれて笑うのは、かつての恋人。
あたしが壊したはずの彼は今笑っている。
「…悪い。遅くなって」
向けられる好意を踏みにじってばかりいた。
「ずっと待たせてごめん」
何年も待たせて何年も逃げてばかりで。
それを今日、終わらせようと思う。
*
店の人に休憩をもらった直と2人向かい合って座る。
夏なのに捲られることのないシャツが胸を締め付けた。
何から謝るべきなんだろうか。言い訳がましくならないだろうか…。頭の中に巡る男らしくない考え。
コトリとカップを置いた直の視線が突き刺さる。
「来てくれたってことは、彼から花束受け取ったの?」
「あ、あぁ……一応」
「一応、ねぇ。一応…一応」
一応と繰り返した直は刺すような視線を引っ込め、にっこり笑う。
「桃って本当に意気地なしだよね」
「…………は?」
「というよりヘタレ??そういうところ本当に昔と全然変わんない」
「………………え?」
その表情と言葉のギャップに驚き固まるあたしに直は続ける。
「言っとくけど桃が考えてる事って見当違いだからね。
僕はもう桃のこと好きでもなんでもないんだから」
「え、ちょっと待って…だって、だって手紙には…」
歩ちゃんから貰った花束に入っていたのは直からの手紙だった。
「もう一度あの日に戻ってやり直したいって」
確かにそう書いてあったはずなのだ。
だからあたしは今日、直に会いに来たのに。
「そうだよ。やり直したいんだ。
ちゃんと全部終わりにしよう」
あたしを見る直は視線を逸らさない。
けれどその手は自然と耳に触れる。
変わらない、なぁ……と思った。
嘘をつくときに耳に触れる癖も、自分を押し殺してしまうところも。
優しくて弱いくせに強がるところも。
そういうところが好きだった。
そう、確かに好きだったのに。
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