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知らない廊下、知らない景色。
普段自分が過ごす環境とは相容れない場所。
ここで過ごす彼はどんな話をして、どんな風に笑うんだろう…そんなことを考えながら前へと進む。
「兎丸」
かけられた声に大袈裟なほど肩を震わせたウサギちゃんにあたしは内心笑ってしまった。
「そちらの方は?」
どうやらこの学校の教師らしき男は、あたしを訝しげに見る。
それもそうだろう。見ず知らずの男が堂々と校内を歩いているのだから。
「えっと…この人は、その……」
「?」
なんて嘘が下手な子。
これじゃあリカが24時間目が離せないのもわかる。
「兎丸慧の兄です。いつも弟がお世話になっております」
「お兄さん?どうして学校に…?」
「進路の件で担任の獅子原先生に呼ばれまして。弟はあまり学校での話をしてくれないもので、お手数お掛けして申し訳ないです」
よくもまぁベラベラと嘘が出るものだと思う。
それは職業柄というものもあるけれど。
「あぁ、そうなんですね。獅子原先生でしたら科目室にいらっしゃいますよ」
「ありがとうございます。では、失礼致します」
頭を下げ、ウサギちゃんを促してその場を立ち去る。
角を曲がって、あの教師が見えなくなってからウサギちゃんが口を開いた。
「桃ちゃんって嘘つくの慣れてるね」
「ふふっ。弁護士は口が上手くなきゃやっていけないもの。それにしても、たっくんの作戦は成功ね」
あたしにウサギちゃんの兄を演じるよう言ったのは、たっくんだ。
「俺の兄貴にしちゃイケメンすぎる」だなんて、どんな理由だと思ったけれど…。
ウサギちゃんの家族はほとんど学校に現れないらしく連絡も電話のみだからバレることは無い。
日頃1番抜けているように見えて実は頭の回転が速い。
見てないようでしっかり見ている子だと思った。
しばらくして現れたのは鉄の扉。
ひっそりと静かな廊下が嫌でもあたしの緊張感を増していく。
「ここが科目室。開けるよ?」
扉に手をかけるウサギちゃんを止める。
「あたしに開けさせて」
この扉を開けるのは自分でなくちゃダメ。
自分の手で、自分の足で前に進まなきゃダメなの。
鉄の感触が指に触れ、目を瞑る。
さぁ……腹を括れ大熊桃太郎!!!
「…そういう事だから俺が代わりに顔を出してやるよ」
「バカ言うな。お前が行っても納得しねぇよ。アイツが呼んでんのは俺なんだから」
中から聞こえる声にハッとした。
「でも兄貴が行ったら…」
「帰してもらえないかもな。まぁ抜け出すから大丈夫だろ」
扉に手をかけたきり動かないあたしを、ウサギちゃんが不思議そうに見る。
この子には聞かせちゃいけない。
知るにはまだ早すぎる。
2人の会話を遮るように思い切り扉を開けた。
似ているようで少し違う2人が同時にこちらを向く。
「あら?お話し中だったかしら?」
驚く歩ちゃんと微かに笑うリカ。
ふぅん…あたしが来るのなんて想定内ってワケね。
自分の友人ながら未だ掴めないリカにあたしは心の中でため息をついた。
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