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「桃さんに、慧?」
あたしの後ろのウサギちゃんを見て歩ちゃんは眼光を鋭くした。
よっぽどウサギちゃんには聞かれたくなかったらしい。
ウサギちゃんが何かを言おうと口を開くが、絶妙なタイミングでリカがそれを遮る。
「桃。校内は関係者以外立ち入り禁止って知ってるか?」
「今から関係者になるから大丈夫よ。で、お説教タイムは終わりでいいわよね?」
わざとらしく肩を竦めたリカは簡単に机を片し、タバコを掴んで歩ちゃんとあたしを通り過ぎる。
「じゃあ慧君は俺と見回りデートでもしますか」
「は?」
ウサギちゃんの肩を抱き、扉まで歩くと肩越しにこちらを振り返った。
「1時間な。それで何も変えらんねぇなら知らないから。
いつまでもウジウジしてろよ」
「ふんっ!バカにしないでくれるかしら」
「はいはい。さ、邪魔なの来たから移動しようなー」
あくまでも自分達がメインなのは変わらないらしい。
それでもこの部屋を譲ってくれる辺り、さすがだとも思う。
1人わかっていないウサギちゃんを連れて悪友が出て行き、あたしはしっかりと扉に鍵をかける。
「こんなとこで何してんすか」
パイプ椅子に座る歩ちゃんの前まで行けば、その目は無表情にあたしを映した。
スーツが汚れるのも気にせず両膝をつく。
奮発して買ったのに今はそんなのどうでもいい。
「言い訳をしに来たの」
「言い訳?」
「あたしの話…聞いてくれる?」
触れた彼の手は少し冷たい。
手の冷たい人は心が優しいらしい。
そういえばリカも直も手が冷たかったな…だなんて思い出して笑ってしまった。
「昔ね、とても卑怯な男がいたの。
自分の事ばかり考えて自分の事に必死で、都合が悪いと目を逸らしてばっかり。何もかも後回しにして結局全て壊した」
すでに直から聞いて知っている歩ちゃん。
それなのに黙ってあたしの続きを待ってくれる。
「無理して笑っているのに気づいてた。彼の言いたい事も知っていた。それでも知らないフリを続けてしまった。
それが間違いだと気付いた時には目の前の彼は傷だらけで……」
あの日の光景が浮かんで瞼が震える。
涙を流す大きな瞳、何を紡いだかわからない唇に薄い傷跡が何本も走った白い腕。
右手に握られた鈍色の刃がキラリと光る。
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