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振りかざした刃はあたしの右肩に刺さる。
人生で1番の痛みが走り、噛み締めた唇から鉄の味が咥内に広がった。
熱くて痛くて痺れるあたしの身体の下で震えながら何度も「ごめんなさい」と呟く直。
「とっくに愛情なんて無かったんだ。直の気持ちが重たくて、けれど傷つけると思ったら言えなかった。
いつか直から離れていってくれればと思ってたんだ」
なんて狡く弱い。
あたしの話を聞いてた歩ちゃんは黙ったままだった。
幾ばくかの沈黙が続き、やっとその口を開く。
「傷つけたくなかった…なんて嘘でしょ。
傷ついたあの人を見るのが嫌なんじゃなくて、誰かを傷つける自分を見たくなかった。違いますか?」
「ーっ!!!」
「桃さんは優しいけれど冷たい。みんな平等に接して、みんな好きとか言うくせに本当は誰も好きじゃない。
別に桃さんだけが悪いワケじゃない。自分を傷つけてた竹虎さんにも非がある」
手が震える。
渇いた喉は声を成さない。
「俺ね、あんたが本当に笑ってんの見たことない」
あぁ…目眩がしそうだ。
どうして彼には全てわかるんだろう。
いつも必死に隠してきたはずなのに。
「いつもバカみたいに騒いでるけど桃さんには見えない壁がある」
どうして気づくんだろう。
リカや豊と違って短い時間しか一緒にいなかったのに。
「桃さんは嘘が下手ですよね。あんなのに騙されないのは慧みたいなバカぐらいですよ」
「そう…かしら」
「少なくとも俺はそう思いますけど」
今までバレたことなどない。いつも上手くごまかしてきた。
それをバレバレだと、こんなにもあっさり見抜いてしまった歩ちゃん。
隠せない動揺があたしを襲い、思わず身体に力が入ってしまう。
「なんで気づいたのかって顔してる。知りたい?」
身をかがめた歩ちゃんは、あたしを覗き込むようにして顔を近づける。
年甲斐もなく胸が高鳴る…まるで初めて恋をしたみたいだ。
こんな胸の高鳴りなんて知らない。
吸い込まれそうになる瞳があたしを映し、ゆらりと揺れた。
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