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「理佳。お前その顔どうにかできないのか?」
今日会ってから聞く何度目かの台詞に俺は内心…じゃなく大々的にため息をついた。
相手が更に呆れた顔をするがそんなの知ったことじゃない。
「お前の気持ちもわかるけど向こうに着いたらちゃんとしなさい。ただでさえ敵ばかりなんだから」
「わかってるよ。もう慣れてんだから大丈夫」
ならいいけど…と、親父は視線を窓の外に移す。
流れゆく景色がどんどん俺を底辺へと落としていく。
ウサギを送り届けた後、家へ戻りタクシーで駅へ向かった。そして合流した親父と新幹線に乗り込み目的地を目指す。
親父の実家。
俺にとっては1秒でもいたくない、空気すら吸いたくない場所だ。
「それにしても今回は5日だなんて長いな」
売店で買った新聞を広げながら親父が言う。
その呑気さに少しだけ苛立った。
「どうせ良くない事考えてんだろ。
いい加減構うのやめてくんねぇかな」
今回の帰省はアイツの婚約が決まったかららしい。
親戚一同集めて…と言ってたが、アイツの言う『親戚』は至極限られた数人のみだ。
現に弟の歩には声がかかっていない。
「休みが全部これに飛んでしまうよ」
ガサゴソと袋を漁った親父は中から弁当とお茶を取り出し俺を見た。
「食うか?」
「いらない」
今朝、無理矢理詰め込んだ朝食が胃の中でまだ消化されずに残っている。
ウサギにバレないよう平然を装うのに必死で味すら感じなかった。
「理佳はこの5日でまた痩せるな。最近は細身の男が人気だってウチの研究室の若い子から聞いたよ」
「俺は食っても太れないだけ。そこだけはアンタに似たんだよ」
普段ラボにこもりっきりで陽の光をほとんど浴びない親父。色白の肌に細い身体。
母さん譲りの女顔を除けば俺と親父は似ている。
「手のかかる弟が増えたと思えばいいんじゃないか?」
日頃の癖なんだろう。弁当をかき込みながら喋る親父に俺の眉が寄った。
「食ってる途中に喋んなよ。それにアイツの方が年上だ」
「精神年齢だよ。実際の年齢なんてアテにならない。大事なのは心と身体のバランスだ」
学者らしいことを言っているが、その口元には米粒が付いていて説得力は半減。
付いていたおしぼりを渡せば親父は目尻に皺を刻んで笑う。
これからの数日を思うと胃痛に頭痛だけじゃなく吐き気までしてきそうだ。
漂ってくる匂いから逃れるよう、顔を背けて寝たふりをする。
でも…俺が本当に逃げたかったのは、心配そうに俺を見る親父の視線からだった。
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