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アナウンスが聞こえ、俺は微睡みから目を覚ました。
寝たふりをしていたはずが本当に寝てしまっていたらしい。
この数日は時間さえあればウサギを構っていたから疲れが溜まっていたのかもしれない。
駅から出てタクシーに乗り込めば目的地はすぐそこだ。
懐かしい街並み。
ここで過ごしたのは歩が生まれる前の数年と、長期休みの間だけだった。
それなのに身体は勝手に緊張し、握りしめた手から力が抜けない。
「理佳」
「何だよ」
お互い窓の外を見たまま始まる会話。
「殴るなら顔は駄目だぞ」
「殴らねぇよ。あれの勝手は今に始まったことじゃないだろ」
「それでもだ。帰りたい所があるなら我慢しなさい」
俺から親父にウサギのことは一切話していない。
歩が何か言った…とも思えない。
黙る俺に、親父は得意げに笑って続ける。
「離れてても親だからな。
お前が変わったことぐらいすぐ気付く」
「へぇ」
「歩も最近丸くなったらしい。息子って遠くにいってしまうから嫌だな。帰ったら娘でも作るか」
さすがに無理だろ。相変わらずの女癖の悪さは健在らしい。それが原因で母さんが出て行ったのに懲りない人。
無言の俺からそれを察知した親父が睨みつけてくる。
「言っておくが…孫が出来てもしばらくはお爺ちゃんとは呼ばせないぞ」
「好きにしろよ」
どう転んだってそんな日は来ない。
俺はウサギ以外を選ぶつもりなんてないんだから。
それは…あの人にも言ってある。
親が親なら子も子。
あの生意気な頑固ウサギと同じで、堅物で真面目なあの人が納得してるかは別として俺の気持ちは変わらない。
やがて街の中心を抜け、住宅街に入り大きな屋敷の前で止まる。
立派な門構えに心が益々硬化していく。
「さぁ。それじゃあ戦いますか、理佳さん」
「……お手柔らかにお願いしますよ」
車から降りて荷物を受け取り、一歩踏み入れる。
香る緑の匂い。水の匂い。
木の匂い。花の匂い。
清々しいはずのソレが一瞬にして無くなり、代わりに現れるのは嫌味なほど高そうな着物を纏った人物。
「いらっしゃい。理佳に会うんは何年振りやろか」
「4年振りぐらいじゃないか」
「ハズレ。正解は5年3ヶ月と10日振りやで」
「……お前は本当に変わらねぇのな由良」
纏わりつく大嫌いな声と、隠そうともせず向けられる嫌悪の視線。
瞼を閉じ、照れたように笑うウサギを思い浮かべる。
そして俺は作り笑顔で由良に微笑んだ。
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