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恒兄ちゃんが用意してくれた服。
どっから見ても高そうで着心地が悪い。
ソレに身を包み、これまた高そうなホテルのレストランで待つこと10分。
現れた恒兄ちゃんの後ろには父さんの姿があった。
初日に会って以来なのに、やっぱり俺を見ない。
そんなに嫌なら来なくていいのに…こんな時間なんて無意味だと思う。
「個室じゃないのか」
「いや、個室を予約したはずなんですが」
「俺がこの席がいいって言ったんだよ。外見ながら食いたくて」
どうせ会話は無いんだから個室なんて余計に息苦しくなる。
それなら景色でも見ていた方がマシだ。
「どうしますか?」
恒兄ちゃんが父さんに聞く。
すると父さんは黙ったまま俺と対角線上の席に座った。その横には恒兄ちゃん。
正面に座るのすら嫌なのかよ…と、どんどん落ちていく思考が止められない。
コースで運ばれてくる料理。
周りからは楽しそうな会話が聞こえてくるのに俺たちのテーブルは無言。
時々、俺が鳴らす皿とフォークが当たる音ぐらいしか聞こえない。
手元が滑ってフォークを落とし、拾えば父さんが咳払いをした後眉を顰めた。
恒兄ちゃんが俺を見て言う。
「慧。こういう所では落としたシルバーは拾ってくれるから放っておいていい」
シルバー??首を傾げる俺に恒兄ちゃんは自分が握っていたフォークとナイフを掲げる。
「なにそれ。どんだけ俺様なんだよ」
うちのドSな俺様でも落としたものぐらいは自分で拾うっつーの。
「それがマナーだ」
今日初めて父さんが俺に向かって言った言葉。
皿に視線を落としたままの言葉。
「……それはすいませんでしたね」
「すみません、だ」
続く小言に父さんを睨んだ。どうしてここまで俺を嫌がるのか。それなのに、どうしてこうやって時間を作るのかわからない。
さっきよりも雰囲気の悪い場が嫌になって席を立つ。
食事中にトイレに行くなんて何か言われるかと思えば、あからさまにホッとした父さんの横顔が見えた。
悲しい、じゃない。辛い、じゃない。
言葉に表すなら『悔しい』
同じ息子なのに俺にだけ冷たい父さん。
ずっとずっと仕事ばかりで、母さんが出ていっても平気そうだった父さん。
星兄ちゃんが死んだ時だって仕事の心配をしていた父さん。
俺は父さんほど冷たい人を知らない。
俺は父さんとは違う。
昔は何も思わなかった。
こうやって無関心に扱われても俺も無関心を返してた。
俺を変えたのはリカちゃんだ。
そして、今の自分の方がよっぽど良いと思う。
寂しさも切なさも、悲しさも悔しさも。
嬉しい気持ちも楽しいって感情もちゃんと持ってる。
大して時間を潰せなかったトイレから戻る。
途中通った廊下で、ふわりと甘い匂いを感じた。
リカちゃんと俺が付けている香水とは違う匂い。
これも悪くない…けど、俺たちの匂いの方が好き。
自分自身の匂いはあまり感じない。俺が好きなのは、リカちゃんの匂いと混ざったバニラの甘い匂い。
想像しようとして悲しくなるからやめる。
「大丈夫。俺は1人じゃない」
昨日は否定した言葉を自分で言ってみる。
なんだか…その通りな気がした。
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