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「別に今すぐ受け入れろとは言わない。少しずつでいいから向き合ってみろよ」
「向き合うって言われても…」
「大人っていうのは面倒くさい生き物なんだよ。色んなモノが邪魔して思うように行動できない。
言ってやりたい言葉も言えないし、わかってても知らないフリしなきゃいけない」
自分の手のひらを見つめながら言うリカちゃんは、淡々と続ける。
「自分のしてることが正しいって思いたくて何か理由つけなきゃ動けない」
「リカちゃんもそうなのか?」
俺を見て目を細めて笑う。
それが肯定なのか否定なのか、表情で判断はできなかった。
「さぁ。どうだろうね」
自分の右手を嗅いだリカちゃんは立ち上がり部屋を出ていく。
しばらくして水の流れる音が聞こえたから手を洗いに行ったらしい。
戻ってきた時には着ていたシャツを脱いでスラックスだけになっていた。何も着ていない上半身に目が釘付けになりかけて、慌ててそらす。
「なんで脱いでんだよ」
「もう無理。1時間でいいから寝かせて。
ここんとこ殆ど寝てなかった上に昨日の徹夜でさすがに限界きた」
ソファーの背に持っていたシャツを放り、代わりに俺の手を取る。
「なんで俺まで?」
「お前抱いてた方が熟睡できるから。ついでに一緒に眠ればいいだろ」
俺が眠たいのか、そうでないのかなんて無視して寝室まで連れてきたリカちゃん。
ソファーの時と同じように勢いよくダイブする。
もちろん俺を抱きしめたまま。
ベッドのスプリングが2人の体重を受け大きく軋むが、少ししたらそれも止まり部屋は静寂に包まれる。
本格的にウトウトし始めたリカちゃんを見ながら、そういえばまだ聞いてなかったことを思い出した。
「なぁ。怒った理由ってさっきの?俺が父さんのこと知ろうとしなかったからか?」
滅多に怒らないリカちゃんがそんなことで怒るとは思えない。
リカちゃんが怒るのは俺に何かがあった時か、俺がヤケになった時だけだから。
「んー…怒ったっていうか、あれは…」
だんだん聞こえなくなる声。
間延びした言葉は、リカちゃんが眠りに落ちかけているのを表している。
「おい寝るなよ!!寝るなら最後までちゃんと説明してからにしろ!」
「お前…時々鬼みたいなこと言うのな」
「説明してやるって言ったのはお前だろ?嘘はつかないんじゃねぇのかよ」
「後でもいいだろ…」そう言いながらもリカちゃんは閉じかけていた瞼を開ける。
自分で言っといてなんだが、ここまで眠たい状況…俺なら絶対無視して寝てる。
うつ伏せだった身体を横向きに動かしたリカちゃんが腕の中にいる俺の髪に顔を埋める。
耳にかかる吐息がくすぐったくて身体を捩れば、その力は一層強くなる。
「なんだっけ、怒った理由…あぁ、お前が『俺なんか』って言ったから」
「俺なんか…って言ったっけ?」
「言った。俺なんかバカだし何の役にも立たないって言った」
言った本人が覚えてないのに、よく覚えてるよな。
さすが抜け目のない、というよりしつこいだけある。
「俺のことバカバカ言うのはリカちゃんも同じだろ」
「俺が俺のモノを何て言おうが構わない。けど他のヤツにお前のことを悪く言われるのは絶対に許せない。前にも似たようなこと言ったのに覚えてねぇの?」
「覚えて…る、ような覚えてないような」
リカちゃんには色々…それこそどんな神経してそれ言ってんだよってことまで言われてきた。
言われ過ぎたぐらいだ。
「んじゃ次からは絶対に忘れんな。俺はお前のことを悪く言われるのも傷つけられんのも嫌。それがたとえお前自身でも関係ない。お前を泣かせるのも、からかうのも全部俺だけって決まってんだから」
「………どこまで俺様なんだよ」
もう返事は返ってこない。その代わりに規則正しい寝息が聞こえる。
「即寝にしても早過ぎ」
それほど大変な思いをして帰ってきてくれたリカちゃん。
俺との約束を守ることを何より優先してくれたリカちゃん。
すっかり夢の世界へ行ってしまった穏やかな寝顔。
それをしばらく見つめていると俺まで瞼が重くなり、いつの間にか2人して眠ってしまっていた。
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