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隙を見て抜け出した理佳の背中を見送り、私は物陰から姿を現した。
割れたガラスが飛び散り周囲を囲むようにして人が集まってくる。
我が息子ながら随分と思い切った行動に出たものだ。
理佳の目的は警備員を屋敷の入り口から引き離すことだったのだが…ここまで大袈裟にする必要はなかったはず。
よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。
それも仕方ない。
こちらに来てからというもの、理佳はほぼ働きづめだ。
それだけの対価を支払っていると由良は言うが、そこにはかなりの私情が込められている。
嫌がらせと言っても過言ではない。
由良の仕事をサポートすることで理佳は今の生活を手に入れながら教員を続けているのだが、そこまでしてあの場所にこだわる理由がわからない。
それも最近は自ら進んでこちらの仕事を引き受けている。特段、金遣いが荒いわけでもない理佳がなぜ?
その理由は今日のこれと関係あるのだろう。
無茶なことはせず、人の裏の裏をかいて出る理佳。
それがこんな荒い手段に出なければならないほど大切な何かがある。
その何か…誰かの為になら多少の犠牲は問わない。
初めて見た息子の変わりように嬉しくもあり、少し寂しくもあった。
「理佳はどこですか?」
廊下の奥からかけられた声。
その声の主は1人離れたところで騒ぎを眺めていた。
「理佳に渡していた仕事が全て返されてきました。
嫌味なほど完璧に終わらせて」
忌々しそうな顔。
まんまと出し抜かれたのが悔しくて仕方ないんだろう。
「さぁ、どこだろうね」
「貴方が理佳に手を貸したことはわかってる。
理佳はどこだ?」
「仕事を終えたのなら別に構わないだろう。
それとも、このままこの場所に閉じ込める気だった?」
由良ならしかねない。
長年の理佳への恨み辛みが歪んだ人格を作り上げた…とはいえ、それは理佳にとっては寝耳に水だ。
「許さへん。あいつのもんは俺のもんや!」
本性を現した由良が柱を思い切り叩く。
その音は騒ぎに消え、誰にも届かない…私以外には。
「家を継ぐ者がそんな風に感情的になってはいけない。
君は私達の『顔』なんだから」
「うるさい!!」
人を恨むことしか出来ない由良。
それだから周りから浮いていることに気づかない哀れな由良。
「あの男…いつまでも逃げれると思うなよ!」
しかし。
理佳もこうなるとわかってて由良を押し付けてきやがって。今頃空の上で1人ほくそ笑んでるであろう息子を思う。
あの自信の溢れた笑み。
ここを出て行く時の表情。
それが何を意味するのか、父親である私には手に取るようにわかる。
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