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「逃げたとは違うだろうね」
由良の鋭い視線が突き刺さり、苦笑が漏れた。
それに気づいた由良はさらに不機嫌さを増す。
「逃げたんやないやと?」
「あぁ。理佳は逃げたんじゃない」
ただの負け惜しみだと思ったのか、由良がバカにしたように鼻で笑う。
そのプライドの高さに呆れを通り越し拍手を送りたいぐらいだ。
本当に昔から理佳をライバル視してばかり。
どうして気づかないんだろうか。
由良の理佳に対する感情は嫌悪のように見えて違う。
それは一種の尊敬、または憧れに思える。
理佳のことを認めていて、手が届かないからこそ嫌いだと思おうとしている。
嫌いだ嫌いだと思うことで、どうしようもないもどかしさを抑え込もうとしているとしか見えない。
不器用で頑固。自分に正直すぎて自分を持て余す。
だから厄介だというのに……そんなものを押し付けて自分1人帰りやがって。
今はもういない息子に向かって心の中で恨みをぶつけていると、由良が乾いた笑いを零した。
「アホらしい。理佳は逃げたんや。
情けない男……爺さんはあんな男のどこがいいんや」
「逃げたんじゃないって言ってるだろう。
いくら親戚だとしても、あまり息子のことを悪く言わないでくれるかな」
「じゃあなんや?あいつはどこ行ったんや?!」
可哀想な男。
また理佳に置いていかれたと思っているらしい。
でもそれは勘違いだ。理佳は初めからお前など拾ったりしていないのだから。
「逃げたんじゃなく帰ったんだよ。理佳にはもう帰るところが出来たからね」
「そんなんありえへん。あいつは自分以外はどうでもいい冷たい男や!」
「相変わらず頭が固いなぁ…というよりも世界が狭い。
仕方ないとは思うけどもう少し外に目を向けてみなさい。そんなんじゃ婚約者に逃げられちゃうよ?」
「さっきから何が言いたいんや。まどろっこしい言い方せんとハッキリ言え!」
由良はなんて幼いんだろう。本当にこれで理佳より歳上なんだろうか。
とは言ってもうちの理佳もやっていることは子供なのだけれど…ね。
「自分以外はどうでもよくて冷たいんじゃない。どうでもいいやつに冷たいだけ」
「そんなん言い換えただけやろ」
この一言が由良を怒らせるのはわかっている。
けれど、こうやって力づくで出ていったということは理佳はそろそろ手を引く気なのだろう。
全てを捨ててでも欲しい何かを見つけたに違いない。
だから大嫌いなこの場所へ戻って来たのだろう。
それなら、その幕を開けてやろうじゃないか。
だって獅子は自分の子を崖から突き落として強くする…というし。ん?それは虎だったかな。
この際どちらでもいいか。
「理佳はね、どうでもいいやつを放ってどうでもよくない人の元に帰った。お前が冷たくされる理由はそこだよ。
残念だったね、由良。お前は理佳にとって『冷たく接しても何も感じないどうでもいい人間』だって思い知らされただけに終わって」
由良の目が見開き、羞恥と憤怒で顔が赤く染まる。
もっと理佳を恨んで憎んで…そして理佳を追いかけることになるだろう。
うちの息子はそれをどうやってあしらうんだろうか。
この崖を這いあがって強くなれ。それぐらい出来ないと一人前にはなれない。
欲しいモノは自分でつかみ取れ。そう教えてきたろう?
子が子なら親も親。ドSの親はもちろんドS。
我が子の成長を思うと、私は溢れ出る笑いを隠しきれなかった。
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