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歩ちゃんが連れて来てくれた店で夕飯を済ませ、少しだけ遠回りして駅へ向かう。
明日も朝から仕事だし歩ちゃんもバイトがある。
「ちょっとだけ公園寄ります?」
聞いてくるくせにその足は既に向かっていて笑っちゃう。頷けば安心したかのように頬を緩ませてくれるのが嬉しい。あたしにしか見せない表情が愛おしい。
こういう気持ち…昔にはなかったなと思った。
あたしは思われるよりも思う方が向いているのかもしれない。
「ここに来るの久しぶりっすね」
「そうね。あんまりいい思い出は無いけれど…」
前に歩ちゃんとケンカした公園、ケンカしたベンチに腰掛ける。
今日はあたしの手にはコーヒーが、歩ちゃんの手には水が握られていた。
あの時とは違って少しだけ肩の力が抜けた2人の関係がそこには表れている。
「そうっすか?むしろ俺にとっては最高にいい思い出なんですけど」
「ケンカしたのが?歩ちゃんって実はMなの?」
鼻で笑った歩ちゃんがあたしから少し離れてタバコに火を点けた。
あたしも疲れた時とかにたまに吸うけれど、ここ最近は禁煙中。理由は……秘密。
フゥっと細い煙を空に吐き、歩ちゃんがこちらを向く。
「アレがあったから俺は桃さんの本心を知れた。終わりが良ければ過程なんて気にしない」
あの時は全てが嫌になって、それを歩ちゃんにぶつけて逃げてしまった。それなのに歩ちゃんは気にしていないと言う。
きっとこの子は懐の深い子。口も性格も悪いけれど愛情深い子なんだろう。
それが自分に向かっていると思うと胸が痛くなる。
そっとその黒髪に触れてみた。サラサラと指の間を滑っていく。
「ん?何か付いてました?」
「……ホコリが付いてたから」
だなんてごまかしてしまう。
思わず引きかけたあたしの手を歩ちゃんが掴んで笑う。
「もっと触って。桃さんに触られるの気持ちいい」
歩ちゃんの髪を梳くあたしと、されるがまま目を閉じている彼。
穏やかな時間は過ぎ自然とお互いの距離は近くなる。
「桃」
囁くように低く小さな声があたしの名を呼び、近づいてくる。
「………いい?」
そんなこと聞いてんじゃないわよ。答える代わりにあたしから口付けた。
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