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身体が石になったみたいだ。
俺の前を通り過ぎて行った2人の背中をジッと見つめる。
「お前他の人の迷惑になるんだからこんなとこで立ち止まんなよ」
後ろから聞こえる歩の声。
「おいってば!」
一向に動かない俺に焦れて腕を掴まれ脇に寄せられた。
その感触でこれが現実なんだって実感する。
「急に止まって何かあったのか?」
「………あれ」
俺の指さす方を見た歩。
その目がリカちゃんを映し隣に移動する。
「あれって兄貴?隣にいんの誰?」
「知らない」
「後ろ姿じゃわかんねぇけど…多分知らないヤツだな」
その言葉で親戚って線は消えた。じゃああの女は誰?
気を許した人しか近づけないリカちゃんの隣を歩く女。
女の顔は見えなかったけれど、雰囲気から時折2人は笑い合っていて、それが胸を締め付ける。
「お前なんて顔してんだよ。別に女と歩いてるからって浮気とは限らねぇだろ」
「でも」
「ああ見えて兄貴だって仕事の付き合いとかあるんだし。新しく来る教師ってことだってありえる」
2人が向かって行くのは駅の方角。確かに歩の言う通りかもしれない。
「兄貴が浮気すると思う?あの兄貴だぞ?」
「それは…そう、だけど。でもモテるし」
俺が今まで出会った中で1番モテるのは誰だって聞かれたら間違いなくリカちゃんだ。
性格はかなり難アリだけど黙ってれば完璧だとは思う。
歩が俺の頭を買ったばかりの参考書で軽く叩く。
「モテるからってイコール浮気するってワケじゃねぇだろ。お前はもっと兄貴を信じてやれよ」
「信じてるっての」
「どこがだよ。相談もしない、知らないヤツと歩いてただけで浮気を疑われる。アイツが日頃どんだけお前に尽くしてると思ってんの?」
尽くされてないと言えば嘘になる。けれどリカちゃんはそれだけで終わらない。
俺だって同じぐらい…ううん、俺の方がリカちゃんのことを思ってる。
「くだらねぇこと考えてるなら勉強しろよ」
「歩には言われたくねぇ」
右手の参考書を歩が無言でアピールする。
そうだった。歩はもう自分の将来を考えて目標に向かっていたんだっけ。
「あとで本人に聞けばいいだろ。どうせ数時間すれば帰ってくるんだし」
2人でマンションまで戻る。
1時間経って歩が真剣に参考書読んでるのを眺めて。
また1時間経って、やっぱり歩は勉強していた。
俺はそれを気にしないフリしてテレビ観たりスマホ弄ったりしてやり過ごした。
そして1時経って歩と2人で近所のラーメン屋に行くかファミレスに行くか揉めて結局ラーメンを食って。
また1時間、そして更に1時間。
とうとう夜の10時を過ぎて歩が帰ってしまって1人きり。
鳴らないスマホに開く気配のない玄関。
日付が変わっても1人分だけ空いたままのベッド。
空が明るくなってきて陽が昇り、今日も強い日差しが降り注ぐ。
何も用意されてないテーブルに掛かっていない内鍵。
この日、何の連絡もないままリカちゃんは帰ってこなかった。
リカちゃんと一緒に過ごし始めて何度かケンカもした。
別々に寝た日もある。俺が拗ねて家に閉じこもることもあった。
でも……リカちゃんが何の連絡もなく帰って来なかったのは初めてだった。
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