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「はい。……おおっ!!」
一瞬にして笑顔になった教頭はガラケー相手に頭を下げ、にこにこと会話を始めた。その内容から察するに今日は教師陣で飲み会があるみたいだ。
リカちゃんから何も聞かされてなかった俺は少しムッとしたけれど、隣の歩が身体を寄せてくる。
「慧。このタイミングで逃げるぞ」
「え?」
「多分あの電話、兄貴だから。教頭があんな嬉しそうにすんのは兄貴と校長ぐらいだ」
いや、リカちゃん一体何者なんだよ…。なんで教頭まで手玉に取ってるのか不思議で仕方ない。
教頭は周りに花でも咲いたかのようにご機嫌になり、始終ガラケーに向かって頭を下げる。
リカちゃんと教頭の会話が気になって仕方ない俺の腕を歩が掴み、ゆっくり後ずさった。
1歩…また1歩。
ある程度の距離を開けたところで、後ろを振り返り一気に走り出す。
気づいた教頭がまた大声を張り上げる。
「待てお前らーっ!!!」
追いかけてくるかと思ったけれど、教頭の足はそこから動かない。それどころか電話さえ切ろうとしない。
急いで靴を履き替え校門まで逃げる。やっぱり追いかけてこないのを確認し、そのスピードを緩めた。
「…ハァ。助かった。リカちゃんすげぇタイミングで電話してくんのな。まるで見てたみたい」
「みたいじゃなくて見てたんだよ。じゃなきゃアイツが教頭に電話なんてするかよ」
「なんで?」
「教頭って兄貴のことかなり気に入ってるらしくてさ。一時は自分の娘と見合いさせたがってたらしい。今は慧ちゃんの存在があるから黙ってるけどあの様子じゃ絶対に諦めてねぇな」
「慧ちゃんって言うな」
「しつこい教頭にわざわざ電話したってことは俺らを助ける為以外に考えらんねぇだろ。アイツのことだからどっかで隠れて見てたに違いねぇ」
助けられたことが悔しいのか歩が舌打ちをする。
「あー…やっぱ見失ったか。とりあえず拓海ん家行ってみようぜ」
「あ、うん」
歩の隣に並んで歩き出せばポケットのスマホが震えて新着メッセージを知らせる。
『あんなハゲの言うことは気にすんな。俺の慧君はクズなんかじゃないから』
歩の言う通り、どこかで見ていて助けてくれたんだ。
教頭に言われたことなんて何とも思ってないけど、なんだか嬉しくって。
「俺の慧君とか恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよ」
「は?なんか言った?」
「別にー」
独り言をごまかす俺の隣で歩が不思議そうに首を傾げる。
眩し過ぎて目が痛いと思っていた青空が、リカちゃんの一言で綺麗だと思えたんだから俺は単純だ。
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