アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
515
-
拾い上げたのは四つ折りの紙だった。
軽く折られていただけのソレは俺の手の中で開き、中から綺麗な文字がのぞく。
男のものとは思えない綺麗で、それでいて繊細な文字。
嫌でもコレの送り主がわかってしまう。
俺の心の中で見るなと言う自分と見てしまえと囁く自分がいる。きっと見ても良い事なんて無いってわかってる…それなのに。
手が勝手に動いて、その全貌が明らかになる。
見なければよかったと思ってももう遅い。
『9時に待っています』
これは何?誰を待ってるって?
そんなの簡単じゃないか。コレを持ってるのがリカちゃんなら、誰かがリカちゃんを待ってる。
誰かが、どこかで、俺のリカちゃんを待ってる。
それが誰で場所がどこなのか…わかるのはコレの送り主と受け取ったリカちゃんだけだろう。
2人だけの秘密。
俺とじゃなく別の誰かと秘密を共有するリカちゃん。
「ありえねぇ…」
悲しみって積もり積もれば怒りに変わるみたいだ。今思うのはただ1つ。
あのニヤニヤと笑う顔をぶん殴ってやりたい。
俺だけが特別だって言ったあの顔を思い切り殴り飛ばしたい。
手の中の紙をグシャッと握りつぶし、ポケットの中へ押し込んだ。見たことがバレたって構わない。
俺はわめき散らしたいんじゃない。一方的に怒りたいんじゃない。
ただ本当のことを知りたい……って思うのは、こうやって証拠を見つけてもリカちゃんを信じているからだろう。
限りなく黒に近いグレーだと思っていたい理由。
それは、どんなリカちゃんでも好きだから。
認めてしまえば全てが繋がる。
別々の時間が増えることも、一緒に眠らない理由も。
今までだって仕事が忙しい時はあった。それでも出来るだけ一緒にいてくれた。
それが今回は出来ない理由んじゃなく、しない理由。
あの女の存在を、この手紙の意味を認めてしまえば答えは1つしかない。
嫌だ……そんなのは絶対に嫌。
けれど俺は何も知らないフリが出来るほど大人でもないし、聞き分けがいいヤツじゃない。
言いたいこと聞きたいことを精一杯考えて整理して時間を潰す。時計の短針が9を指し、スマホを手に取った。
『9時に待っています』
もちろん電話をかける相手は1人しかいない。
耳に当てた機械から聞こえる電子音。何度か呼び出し、そして留守電に変わる。
『9時に待っています』
俺は知らない。リカちゃんが、いつ、どこで誰と会ってるのかを知らない。
それが一昨日なのか、昨日なのか。
今日も明日も明後日も会うのか。
俺の知らないリカちゃんがまた増えていく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
515 / 1234