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「なんてね」
「え?」
立ち上がったリカちゃんが伸びをして俺を振り返る。
「俺シャワー浴びて仕事するけど、どうする?」
「どうするって…」
「腹減ってんだろ?軽くなら作ってやるけど」
てっきりそのまま一緒に寝ると思ってたのに、リカちゃんにはその気は無いらしい。
その証拠に鞄からパソコンやファイルを出してテーブルに並べだした。
1人盛り上がってた気持ちがどんどん萎えていく。
「いらない」
帰って来てくれたのは嬉しい。心配してくれたのも、仕事より俺を優先してくれたのも嬉しい。
でも…リカちゃんなら黙っていても俺の異変に気づいてくれるはず。
リカちゃんは何でも知ってて何でもしてくれる。言わなくても「わかってるよ」って言ってくれる。それがリカちゃんなのに。
「帰って寝るからいい」
「腹減ってて寝れんの?」
「子供じゃねぇんだから我慢ぐらいできる!」
早足でリビングを横切り、廊下に続くドアに手をかけた。追ってこないリカちゃんはネクタイを解いてそれをソファに投げかけている。
「なあ。これからも帰ってくんの遅いの?」
「しばらくはな。三者面談と修学旅行終わるまでは残業続き」
それならあの手紙の女とはいつ会うんだよ。
メールでも電話でもなく、わざわざ残る手紙で待ってるなんて言う女。
俺の知らないところで俺にバレないように時間作って会うのか。それとも、あの女が一方的に待ってるだけ…とか?
リカちゃんなら言い寄られることも多いし有り得る。無理矢理つきまとわれて仕方なく一緒にいたのも考えられる。
「残業って本当?嘘ついてねぇ?」
「なんで嘘つく必要あんの?」
その顔からは騙してやろうとかは感じられない。いつもと同じだった。
「ずっと言ってるだろ。俺は嘘はつかないって」
何度も聞いてきた。リカちゃんはその言葉を守るためにどんな事でもしてくれてきた。
「リカちゃんって仕事終わりに桃ちゃんや美馬さん以外と会ったりすんの?」
「は?なんで仕事で疲れてんのにそんな無駄な時間使わなきゃなんねぇの」
本当に本当なんだろうか…リカちゃんの様子とか言葉からは嘘をついてるように思えない。でも、あの日の2人とさっき見た手紙が忘れられない。
どっちを信じていいのかわからない。何が本当で何が嘘か全然わからないんだ。
「慧」
リカちゃんが扉の前で立ち止まったままの俺に向かって歩いてくる。目の前で止まって、俺の頭を撫でた。
「寂しい思いをさせてるのはわかってる。でも、こういう時間も大切だから」
これって我慢しろってことだろ。俺が大嫌いで、苦手な我慢をしろって言われてる気になる。
「お前ならできるから。俺を信じて待ってて」
両手で頬を包んだリカちゃんが俺にキスをする。
玄関でしたのとは違う、優しくて気遣うようなキス。
我慢。我慢。我慢。
そう言い聞かせるように俺はそっと目を閉じた。
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