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「なぁ。さっきから聞いてればお前ら話噛みあってなくね?」
「「え?」」
「ケンカしたみたいって拓海は当事者だろ?なんでそんな他人行儀なんだよ」
黙り込んでただけじゃなく、ちゃんと話を聞いてた歩が伸びをしながら拓海を見る。
そしてこの数日の間、聞きたくても聞けなくて仕方なかったことをぶつけた。
「ってかさ、大事なことだから確認させろ。いつ、誰と誰の子供が生まれんの?」
「おい歩!!そんなにストレートに聞いたら拓海だって答えにくいだろ」
「もう面倒くせぇ。さっさとハッキリさせてぇから答えろ拓海」
「だーかーら!拓海だって急に父親になるって知って心の準備なんかまだできてねぇだろ!なんでお前はそうやって答えを急ぐんだよ!」
誰かさんと同じで鋼の心臓を持つ歩には、きっと俺たちみたいな繊細な感情は理解できないんだろう。
だからそうやって遠慮なく聞けるんだ。
「急いでねぇし。お前らの話聞いてたら2時間目どころか午前中ずっとサボることになる」
「こういうのは拓海だけの問題じゃねぇの!彼女と拓海、両方の気持ちを考えてだな…」
ここは俺が上手くおさめてやろうと歩を説得しようとした…のに、俺よりも大きな声の持ち主が急に立ち上がる。
「ストップ、ストップ!だからなんでお前ら2人はすぐ言い合いになるんだよ!!」
また睨み合いを始めた俺と歩に拓海がストップをかける。そして一息置いて歩、その次に俺を見た。
「なんかさ……よくわかんねぇけど俺が父親って何?彼女ってなんでそんな呼び方してんの?」
「え…だって彼女の名前知らねぇし」
「慧ってば暑くてボケたのか?何回も呼んでんじゃん」
何回も…って、え?俺、女の友達なんて1人もいない…どころかまともに話したこともないんだけど。
「拓海、お前の彼女って誰?」
拓海が俺をジッと見る。そして首を傾げた。
「俺の彼女って誰?」
「いや、それを聞いてんだよ」
「俺はなんでそれを聞かれてるのかわかんないんだけど」
この期に及んでごまかそうとした拓海にイラッときた。人が気を遣ってさりげなく聞いてやってたのに…!!それを無視するかのような言葉に思わず肩を殴ってしまう。
「痛っ!慧まで暴力はやめろよ!」
「お前マジ腹立つ!!いいから全部吐け」
「なんなの?!慧ちょっと情緒不安定すぎねぇ?」
「お前が俺をイライラさせるからだ!」
「なんで俺が責められんだよ…慧まで俺様になってんじゃんかよぉ……」
眉を寄せ拗ねたような表情を浮かべる拓海。
そして、ずっと秘密だった真実が明らかになる。
「俺の彼女って何の話か知らねぇけどさぁ………妊娠したのは聡姉だよ。相手は今付き合ってる彼氏さん」
「聡海さん?え、拓海の彼女じゃなくて?」
「だから俺の彼女って何?俺が今まで何回フラれたか知ってるくせに!!」
中学の時から告白しては恋愛対象に見れないとフラれ続けてきた拓海。半べそをかきながら恨めしそうに睨んでくる。
「だいたい彼女できたら2人には言うに決まってるだろ!親友………なんだし」
立たせた髪を照れ隠しに弄った後二カッと笑う。
拓海に隠し事をされて寂しかった気持ちが、その笑顔を見てスッと消えた。
照れながら笑う拓海は前までと変わらないバカで明るくていいヤツだ。拓海にまで置いていかれると焦って、隠し事されてイライラして。
軽くとはいえ殴っちゃったし…なんか気まずい。
「………それを早く言えよバカ。
怒ったり殴ったりして悪かった」
素直に謝った俺に拓海がニコニコ笑ったまま両手を伸ばす。左右の頬を摘まんで思い切り引っ張った。
「いってぇな!!」
「これで許してやる」
「絶対俺の方が痛かったって!!」
「慧ってば大げさ」
騒ぐ俺たちを見て歩がため息をついた。それは呆れたため息じゃなくて安心のため息だろう。
「バカな事してねぇで戻るぞ。拓海、続きは昼な」
歩に続いて俺も立ち上がり、3人並んで廊下を歩く。
いつかこんな日も終わり、それぞれ違う環境で過ごすことになるけれど。それでもこの2人とはずっと友達でいたい。っつーか友達でいる。
別に新しいことに挑戦しなくても、今を大事にするのも立派なことだと思った。
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