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「うま先生すごーい!」
机の上には色とりどりの動物。青いウサギに赤い鳥。緑の牛に桃色の熊に金色のライオン。
子供たちは素直でそれでいて残酷だ。
「ねぇ!次はお馬さん折ってー」
その言葉と同時に差し出されたのは白色の折り紙。たくさんある色の中で白を選んだことに故意はないとわかっている…けれど。
ほら。平凡で他に埋もれてしまう俺には色が無い。
渡された紙を丁寧に折っていく。次第に出来上がっていく形に子供たちは嬉しそうに笑う。
最後に脚を整え、目を描く。そうすれば立派な馬が出来上がった。
「はい」
「ありがとー!!」
俺が折った動物を囲み、あれがいいこれがいいと騒ぐ子供たち。1番人気なのは金色の獅子。女の子は桃色の熊を手に取り男の子は青いウサギと緑の牛を手に満足そうだ。
白い馬は…やっぱり人気がない。他に比べ地味だからだろう。
なんだかやるせなくてそれに手を伸ばす。俺の指が触れるよりも早く小さな手が馬を掴んだ。
「僕は馬がいい!」
「え?」
余り物の馬を大事そうに両手に乗せ、少年は俺を見る。
違うクラスの男の子…隠れてしまった名札で名前はわからない。
何君だったか必死で思い出そうとする俺に、少年が手に持った馬を走らせるようにして遊んで見せる。
「白い馬はとってもいい子なんだよ!優しくて強くてかっこいいんだよ!!」
きっとこの子の言う白い馬は、どこかの民話に出てくる馬のことだろう。
最後まで飼い主を思い飼い主に尽くした馬。確か…スーなんとかの白い馬…だったかな。
「詳しいんだな」
そう言えば少年は花が咲いたように輝いた笑顔を見せた。
「うん!お兄ちゃんがよく読んでくれるんだー」
「いいのか?ライオンでも何でも折ってやるのに」
その子は白い馬を背中に隠し、ふるふると首を振った。まるで宝物でも扱うような行動に驚く。
「嫌だ!僕は馬がいい」
そう言って少年は走り出す。教室を出た途端に別の子とぶつかり、尻もちをついてしまった。
思わず立ち上がった俺の目の前で少年は自分で立ち上がり二カッと笑う。
それは俺に向けてじゃなく、ぶつかった子に向けて。
もう少年の視界に俺は入っていない。
「たっくん大丈夫ー?」
「大丈夫!ごめんね」
2人で笑い合って今度は一緒に走って行ってしまった。
彼と同じ呼び名の少年。たくま君…たくや君……やっぱり思い出せない。
小さなたっくんに小さな幸せを貰い、俺は1日の仕事を終える。
薄暗い道を歩き自分のマンションまで帰って来て部屋へと向かう。
「あ、豊さん帰ってきたー。今日もお疲れ様っ!」
今度は大きなたっくんが俺を待っていた。
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