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桃を床に座らせ、ローテーブルを挟んだ向かいに豊を座らせる。俺は2人の間のソファで足を組み直した。
「ねぇ。なんで家主のあたしと来客の豊が床に座っててリカがソファなの?」
「似合うから」
「出た俺様!」
コースターの丸い型を額に浮かべた桃を一瞥し、その向かいで沈黙を決め込む大男を見た。図体はデカいくせに気は小さい。今のコイツは馬じゃなくてポニーちゃんだ。
「豊。お前さ、自分が思ってるほど上手く隠せてないからな」
「え?豊ってば隠せてると思ってたの?そんなわかりやすい態度してておバカさんねぇ」
「…桃、ややこしくなるからお前はもう黙ってろ」
これ以上余計なことを言って本当に帰られたら困る。
桃に注意すると少し拗ねながらも敷いてあるマットのホコリを取り始めた。ようやく邪魔なヤツがいなくなって、再び豊を見る。
「鳥飼の何が気に入らない?あれはお前の得意分野だろ」
「得意分野って……園児と一緒にしてやるな」
それでも俺にとってはまだまだ子供だ。うちのウサギよりは周りが見えているし、歩よりも聞き分けがいいけれど、子供は子供。
鳥飼は勉強に関してはバカだけれど、誰かを傷つけるタイプじゃない。ああ見えて意外と頭の回転は速いし人の気持ちに敏感なヤツだ。そんな鳥飼が豊を怒らせるとは思えない。
そうとなれば豊が勝手に何かに引っかかってるだけだろう。
今の俺にそれはわからない。
わからないなら本人に言わせればいい。
「珍しいな。いつも冷静なお前が鳥飼なんかに動揺させられるなんて」
豊の眉がピクッと動いた。俺がそれを見逃すわけなどない。
「普段バカは嫌いだって言ってるくせにどうした?鳥飼なんてバカ代表みたいなもんだろ」
今度は眉間に皺が寄り、眼光が鋭くなる。
なんてわかりやすい男…みんな豊のどこを見て何考えてるかわからない、なんて言うんだろうな。
豊は鳥飼を馬鹿にすると怒る。その時だけはあからさまな反応を示す。
隠しきれない笑みを浮かべたまま俺は続ける。それは言葉をより悪へと後押しした。
「あんなバカ放っておけよ。あいつに振り回されるなんてお前らしくなっ───」
立ち上がった豊が俺の胸倉を掴んで睨みつけた。
いつもの仏頂面には怒りがありありと見え、掴んだ手から震えが伝わる。
豊の奥の奥にあるスイッチがやっと押された。
「お前に何がわかる?俺のことも拓海君のことも知らないくせに!」
間近に迫ってきた豊の顔を見つめた。険しい眉に鋭い瞳、唇を噛みしめ怒気を纏う姿。いつも何も考えてないようで、なんとも思っていないフリをしてる姿じゃない。
限界まできていた豊が我慢のメーターを振り切るのは当然で、それを俺に向けるのも当たり前だ。
豊は俺と違って優しすぎる。
嫌なことも辛いことも全部自分の中に隠して、1人で爆発させるタイプ。
けれどそれじゃ本当の解決にはならない。
だから俺が悪役になってやってもいい。
「わかんねぇよ。だって俺はお前らとは違うからな」
「それどういう意味だ?どうして笑う?」
より大きくなる震えに俺は更に笑みを深くする。
「いつも必死で大変だなと思っただけ。努力とか苦労とか…そういうのって疲れねぇの?もしかして趣味?」
いつも地道に努力を積み上げてきた豊ならきっと許せないだろ?今までの全てを否定された気になるだろ?
どうしようもない友人に向かって俺は得意の見せかけの笑顔と最低な言葉を贈る。
「本当ご苦労様…無駄なのにな」
その一言で豊の顔が歪む。
視界の端に振り上げられた逞しい腕が映り、俺に向かって振り下ろされる。
あー…これ多分ウサギ心配するだろうな。加減なんて出来ないぐらい頭に血が上ってるもん。このままじゃ顔面直撃は確実だ。
絶対痛いし腫れるよな…損な役回りだと思いながら俺は微笑んだまま目を閉じた。
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