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襲ってくると思っていた衝撃は待てどもやってこない。
ゆっくり瞼を上げると、目の前で起きている状況に不覚にも驚きで思考が止まってしまった。
それはいつも豊に殴られている桃が振り上げられた腕を掴んでいる姿だった。
ヘラヘラ笑ってバカみたいなことばかり言っているオカマが自分よりも背の高い男を睨みつける。
「何してんだよ」
「桃、離せ」
「豊。お前口で敵わないからって殴る気?少しは自分の歳考えて行動しろ」
一向に動かない腕に焦れた豊が桃を射る。それに負けじと対峙した桃がまた口を開いた。
「言いたいことがあるならちゃんと言え。口下手でもそれぐらいできるだろうが」
豊の表情が翳った。均衡していた力が抜け、腕が降ろされた。力なく座り込んだ豊を見た後、桃が俺を振り返る。
「リカも下手な演技してんな。自分が悪役になってもいいなんてお前らしくない」
「…やっぱりバレたか」
「俺をなめんなよ。何年お前らと一緒にいると思ってんの」
ドカッとソファに座った桃が置いてあった俺のタバコに手を伸ばす。
感情が昂ると出る男言葉に滅多に吸わないタバコ…どうやら本気でキレているらしい。
桃は柔らかい雰囲気とオカマ口調、常に笑っているせいで温厚だと思われがちだが、実は俺たちの中で1番キレやすい。1度スイッチが入れば普段からは想像できないぐらいの男を見せる。
しかもそれは正論なことが多いから余計何も言えない。
現に目の前の豊がそうだ。さっきまで振り上げていた拳を握りしめ、思いつめたように俯いている。
さすがに…やりすぎたかもしれない。
「ゆた「リカ」」
呼びかけようとした俺の声は途中で消え、その代わりに俺の名を呼ぶ豊がこちらを向く。
いつも通りの無表情ではなく申し訳なさそうな、後悔が滲み出た表情だった。
「すまない。冷静に考えたらお前があんなこと言うわけないのに」
「いや…俺こそ荒い方法とって悪かった」
流れる気まずい空気。それを覆い隠すように紫煙が宙を舞う。
「で?いつまで続けるのよ、この茶番」
「茶番って…それより戻ったのか?」
「人を二重人格みたいに言わないで。ちょっと頭に血が上っただけよ」
ちょっとで自分よりも遙かに大きい体格の男をねじ伏せるのは容易ではないと思うけれど。
それでも桃のお陰で冷静な豊が帰ってきたことは間違いない。やり方は違えど…というよりも、桃のやり方の方が良かっただろう。
さすが大先生だ。
「2人に聞きたいことがあるんだ」
自身の手のひらを見つめながら豊は落ち着いた声で問いかけてくる。
「俺は何色だと思う?」
それは何を意図しての質問かわからないし正解だって見えない。豊が何を求めてるのかも、どう答えるべきかも全く想像すらつかない。
隣に座る桃を見る。俺と同じように不思議そうにしている。
豊は真面目で努力家で心の底から他人に優しい。厳しいことを言いながらも、その目は心配そうに相手を映し温かい愛情をもって包み込む。周りを安心させる存在。
そんな豊の色。
何事も受け入れ、相手を尊重し否定せず、それでいて汚れを知らない色。
「「豊は白」」
見事にハモった俺と桃の声。
「やっぱり?豊は白よね。でもってリカは黒」
「それならお前は紫だな。万年欲求不満の可哀想なオカマ」
「失礼すぎるわよ!確かにあんたと比べたら不満かもしれないけど不満じゃないわ!」
「言ってる意味がよくわかんねぇよ」
言い合う俺たちに向かって豊がゆっくりと顔を上げる。
「やっぱりお前たちと俺は違う」
そして、痛々しく笑った。
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