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『違う』
俺はその言葉が嫌いだ。
どうして一緒じゃないといけない?
どうして違っていたらいけない?
たとえば何かで成果を残せば『お前は違うから』といって認めようとしない。
誰かに好意を寄せられたとしても『お前は違うから』といって妬まれる。
良いところを認めず、成功を非難する。
同じ人間なんてどこにもいない。
みんな何かに悩んで何かを求めて何かを諦めて、それでも自分の選んだ道を生きなければいけない。自分の選んだ自分だけの道を。
俺は俺で豊は豊。そしてアイツは…慧は慧。
どこまでいっても別の存在でしかない。
「俺はお前たちとは違う。お前たちに俺の気持ちがわかるわけない」
繰り返される言葉に桃が俺をジッと見る。その目が俺に怒るなと訴えかけてきて、首を振って無言の返事を返した。
「鳥飼ならわかってくれるって?」
「そう思っていたけど…あの子も違うんだってわかった」
くだらない。本当にくだらない。
勝手に親近感を抱いて、それが違っていたら拒絶して。
1人ドツボに嵌って抜け出せなくなったから音信不通だなんて小さいガキと一緒だ。
気付いてほしくないなら態度に出さなければいい。必死に隠して偽りの笑顔を貼り付けておけばいい。
それができないなら自分でなんとかするしかない。
「俺には何もない。人に誇れる特技も、誰かに羨ましがられる才能もない。そういえば昔あんなやついたよなって忘れられるような存在だ」
淡々と話す豊の声に俺は桃と顔を見合わせた。桃の表情からきっと同じことを考えてるんだろうなとわかる。
「お前らみたいな特別で目立つやつの隣にいると嫌でもわかる。俺はその他大勢の平凡なんだって。埋もれて消えていくんだろうなって」
本人にとっては大きな悩みなんだろうけど…面倒くさい上にくだらなくて力が抜ける。
悪役に回ってまで何とかしてやろうとした自分が笑えてきた。
「ふふっ。やだもう!豊ってばポエムまで始めたの?」
「おい桃、せめて言い方があるだろ。ってか笑ってやるなよ…」
「こんなの笑うなって方が無理よ。そう言うリカだってニヤニヤしてるじゃない」
豊が急に笑い出した俺達を不思議そうに見る。それは豊にしては間抜けな顔で、豊のこんな顔を見たのは久しぶりだ。
言い出せずにずっと溜めていたのかと思うと寂しくもあり、気付いてやれなかった自分が歯痒くもある。
それと同時に思い込みが激しすぎて可愛くもある。
バカな子ほど可愛いっていうのは大男にも通用するらしい。もちろん精神的な可愛さであって、だから豊をどうこうしてやろう…とは思わないけれど。
「もうやだわ。どんな大事件かと思って明日期限の仕事置いてきたのに!!」
口を尖らせて髪を指に巻き付け、遊びながら桃が言う。まだ引きずっている豊は硬い表情のままだった。
「特別なやつには理解できないだけだ」
「特別…特別ねぇ。それって何をもって特別って言ってるの?」
「昔から要領が良くて人が集まって来て。注目されて人気があって。いつも自信たっぷりで思った通りになる。それが特別じゃなくて何だって言うんだ」
俺たちを特別だと、自分は平凡だと引け目を感じ劣等感を抱いていたなんて。
あぁ…もう本当に呆れるほどにバカ。いや、バカ通り越して大バカでも足りない。
そんな大バカ豊君は知らないだけなんだよ。
「ですって。嫌がられてるどころか認めてくれてんじゃない。安心した?」
「それはお前がだろ。豊を怒らせる度に今度こそ見捨てられたらどうしようって泣きついてくるくせに」
からかってくる桃に同じように返せば嬉しそうに笑う。そういう俺もきっとだらしなく頬を緩めているんだろう。
「さっきから何を言ってるんだ」
自分とは真逆な表情をした俺たちに豊が問いかける。
本当は言うつもりなんてなかった。そんなダサいことしたくないし、言わなくても届いていると思っていた。
でも言わなきゃ伝わらないものがこの世には溢れてる。
それは友達でも恋人でも家族でも同じ。
大切なことは言葉や形で伝えないといけない。
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