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「お前が俺たちを『特別』だと思ってくれてるように、俺たちにとってもお前は『特別』なんだってこと」
「そうよ。あたし達には豊がいてくれないと困るわ。もし豊が埋もれちゃったらリカなんか死に物狂いで掘り起こすわよ」
「それはお前もだろ」
「あら。お前もってことは認めるのね」
目の前で交わされる会話に俺はついていけない。それなのに2人は俺を置いてどんどん会話を進めていく。
「だいたい豊のどこが平凡なのよ。あんた1回、辞書で平凡の意味調べてみなさい」
「それを言ってやるなって。豊のコレは昔からの悪い癖だろ」
「確かにセイもよく言ってたわよね。豊はいつか壺を買わされるって。本当、周りのことを見てるようで見てないんだから」
少し怒った顔をしながら桃が俺を指さす。
「あんたね、自分は落ち着いてて大人だと思ったら大間違いよ!あたしたちの中で1番子供っぽいのが豊なんだから」
「いや…それはないだろ」
どう考えても俺は桃より落ち着いているし常識人だ。いきなり叫び出すこともなければ感極まって抱き付いたり泣いたりしない。
俺は自分を抑えることを知っている。自分の立ち位置をちゃんとわきまえている。
「豊はさ」
リカが長い指で髪を耳にかけた。
そこから現れる目元は俺にはない力を秘めていて、その視線だけで相手を従わせる。笑顔にさせる。
俺の名前を呼ぶ唇から出てくる言葉は誰をも魅了し自信に満ちている。
昔からそれに憧れていた。
「俺にないものを豊はたくさん持ってる。お前がコンプレックスに感じてるかもしれない大きな身体は相手を安心させる。怖いって言われてる顔が嬉しそうに笑えば俺も嬉しく思う」
流し目で俺を見る。その黒い瞳に映る俺はどんなヤツだろう。
自分が嫌になって卑下して当たって、勝手に溜め込んでいたものを爆発させた俺にリカは1番欲しかったものをくれる。
「俺たちの知ってる豊は真面目で、変なところで頑固なくせに少し抜けてる。
自分の決めた目標に向かって努力を惜しまない。けどそれを自慢したり見せびらかしたりしない。
みんなが疲れたって立ち止まったとしても、豊だけは1人進み続ける。その姿を見て俺たちも頑張ろうって思える」
「抜けてるなんて可愛いもんじゃないわよ。天然記念物レベルに間抜けなんだから」
「桃、ちょっと黙って」
リカが立ち上がり隣に立つ。俺と目線を合わせるようにしゃがめば、さっきはわからなかった瞳に映る自分と目が合った。
驚き、不安を感じながらも期待している顔。この次の言葉を欲してしかたない男の顔だ。
「何年も一緒にいるからって口にしなきゃ伝わらないものもあるのに悪かった」
いきなり癇癪を起こした俺じゃなくリカが謝る。
「俺も桃も、星一も。豊がいるから楽しくバカやってこれた。やりすぎても豊が止めてくれるってわかってるから好きなようにできた。
お前が特別だって思ってたヤツら全員、お前を頼りにしてんだぞ。そんなヤツのどこが平凡なんだよ」
「頼りって俺が?」
「お前以外に誰がいんだよ。あんまりこういうの好きじゃないけどお前が安心するなら言ってやる。
豊は努力の天才。それを続けてる豊は特別なんだよ。誰が何と言おうと、豊の代わりはいないし豊だって誰かの代わりにはなれない。豊は豊のままでいてほしい」
たとえ秀でた才能がなくても。自慢できることなんてなくても。そんな俺でもいいんだって言ってほしかった。
「またわからなくなったら溜め込む前に言え。そうしたら何度だって教えてやるから」
リカや桃の友人じゃなく『美馬豊』として認識してほしかった。
「白の意味知ってるか?」
「意味?」
声が震える。目頭が熱くなって、それを零すまいと力を込める。
「純粋。だからそうやって周りに影響される」
「俺には影響されて消える結末しか見えんがな」
最後まで皮肉が出る俺にリカは呆れるでも怒るでもなく笑う。
こんな状況で散々クサいセリフを言った後に見せたのは自信に溢れる俺が憧れていた俺様のリカだ。
「そうなる前に俺が全部飲み込んでやるよ。そこのオカマ曰く、俺は黒らしいし」
俺よりも身体の線が細く、女顔のくせにリカの一言一言がひどく安心する。
「リカはドス黒いものね。その辺のヤツには負けないわよ」
「それ褒めてねぇよ……まあ悩める豊君の為なら必死に頑張っちゃうかもね」
そう冗談っぽく言うけれど、その目は真剣そのものだ。
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