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口元を震わせながら俺を見る猫のような目。こいつと20年来の付き合いの俺は知っている。
桃がこんな顔をするときは聞きたいことがあるとき。そしてそれは大半が面倒くさい内容だってことを。
黙って見られること数分…電話がかかってきたリカは部屋にいない。いるのは俺と迷惑なオカマだけだ。
「ねぇ」
やっとかけられた声だが、あえて聞こえないフリをする。ここで諦めてくれるのなら、それに越したことはない。
けれど素直に諦めるようなやつじゃない。
桃はめげない折れないオカマだ。
「ねぇってば」
猫撫で声で俺の腕を突くのはもうすぐ27歳になる男だ。全然可愛くないのに上目遣いでツンツンしてくる…のが正直鬱陶しい。
さっきまであった感動はとうに消え去り、いつも通りの俺たちに戻っていた。
「ねぇ豊くーん」
「黙れ変態」
「ちょっと!まだ何も言ってないでしょ。言うなら聞いてからにしてちょうだい」
ということは言われるような内容なのか。それとも変態だと自分で認めているのか…それはわからないが桃はニヤニヤしながら楽しそうにしている。
「ねぇ。なんでたっくんを避けてるの?2人って何かあったの?もしかして、もしかするの?」
段々と大きくなる声に比例する桃の興奮。こんな下世話な話題で騒ぎだすのは高校生かゴシップ好きぐらいだろう。間違いなく桃は後者だ。
「なにが。どうせお前は歩君に何も聞いてないんだろう?」
「そうなの。歩ちゃんってば本当話してくれなくてね。この前なんか何か話してって言ったら『何か』って答えたのよ。可愛すぎない?もう好き!」
唯一の救いである男はまだ戻ってこない。このまま俺はここでオカマの妄想8割、願望2割の話を聞かなければいけない。
だいたい『何か』って答える辺り話す気はないし、それを可愛いと思えるのがわからない。
可愛い…ってなんだ。園児は可愛い。いつもニコニコしていて、たまに泣くけれどすぐに元気になる。美味しそうに食べて疲れたら眠る。そう、まさに天使。
それでいくと歩君は真逆だと思う。第一、男子高校生で可愛い…なんてありえるか?
「歩ちゃんのあのクールなのは照れ隠しなの。本当はあたしに甘えたいんだけど照れて言えないのよ。そこも可愛くて…とにかく可愛いの!」
「あの兄弟は照れることがあるのか?兄が兄なら弟も弟…そもそも可愛いっていうのは天真爛漫で明るくてちょっと抜けてて、けど芯がしっかりしてる子だと俺は思うけどな」
いるだけでその場が明るくなるような、それでいて目が離せなくて。けれど自分を持っている子がいい。俺がコンプレックスの塊だからそれを吹き飛ばしてくれる子がいい。
「例えば花でいうならヒマワリみたいな?」
「あぁ。あの真っすぐ上に向かうところは好きだ」
目指すべきところへ必死に進んでいくのがいい。周りが見えていない分は俺が助けてやりたい。
「動物でいうなら小動物?豊が小動物って似合わないんだけど」
「そうか?昔から犬もウサギもヒヨコも飼ってきたし今は猫を飼って…」
「ウサギ?今ウサギって言ったか?」
桃にしてはやたら長く固い腕が俺の肩にまわる。視界に映る色は黒で匂いは甘い。
そういえば口調が違っていたような気もした…けれど。
いつの間にか戻ってきてたリカに肩を組まれ、絶対零度の冷たい笑みが落とされた。
「さっきの電話でさ、クソ生意気なこと言われた俺に対してウサギを飼ってただと?
鳥飼のことも含めて詳しく話してもらおうか……どうやら俺は今日慧君の部屋に帰れないみだいだし?時間はたーっぷりあるんだよ、豊クン」
ウサギ君がリカに何を言ったのか、リカが何を言われたのかは知らないが。
ここで俺がこの俺様に絡まれてるのは理不尽だ。
けれど絶対に逃してくれない悪魔と興味津々で身を乗り出すオカマに、俺は白旗を上げたのだった。
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