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「たっ…たっくんがパパですって?!」
「桃、うるさい。あとそれ違うから」
「あのたっくんが?!たっくんがパパ?!パパって父親のパパなの?!」
「だから違うって言ってんだろうが……何回も言わせんなよ。もうお前はずっと黙ってろ」
リカによって投げつけられたクッションと共に桃がソファに沈む。
拓海君が女の子と一緒に産婦人科から出てきた話をした俺に告げられた真実。
「それ鳥飼の子供じゃないんだけど」
あっけらかんと言い放ったのはリカだった。
「なんで鳥飼が父親になると思うんだ?歩ならともかく、あの鳥飼だぞ」
「ちょっと!!歩ちゃんのこと悪く言わないで!」
「お前は黙ってろって言っただろ。そこでおとなしく歩の妄想でもしとけ」
言い返すと思った桃は素直に黙る。けれど時々「ふふっ」とニヤつくから本気で妄想してるらしい。
その表情はとてもまともな内容を考えてるとは思えないゲスい顔だ。
「お前が見たのは鳥飼のお姉さん。確か大学生だったはず」
「拓海君のお姉さん…」
「似てただろ?あそこの兄弟みんな一緒の顔してるから」
似てたもなにも覚えてないし、ちゃんと顔を見た記憶もない。拓海君よりも背の低い女の子だったことと彼が言った言葉しか記憶に残っていない。
「考えてもみろよ。どう考えても鳥飼はソッチに疎いだろ」
思い出すのはリカとウサギ君を見て真っ赤になり慌てる拓海君。あんなに純粋そうな子が妊娠…というよりそれまでの過程を経ているとは思わない。
「あいつの話す下ネタは基本AVの受け売りだからな。知識ばっか付けて実践で全く役に立たないタイプだ」
純粋ってのは違ったかもしれない。少しだけ拓海君のイメージが変わったような気もする。
「それで、だ。本当のことを知ってどう思った?」
「どうって」
「安心した?良かったって思った?」
「安心?」
これを安心と言うかはわからないが、どこかでホッとした自分がいるのは否定できない。
黙っていても俺の表情で察したのかリカが頷いて立ち上がる。
「まだその段階か。鈍感な豊らしい…けど相手が相手だから時間の問題かな」
手際よく荷物を纏め、鞄を持ったリカは「早く帰らないと本気で拗ねるから」とそそくさと帰ってしまった。
また意味深な言葉を残して…。そこまで言うなら全て言えばいいものを、肝心なところは自分で気付かせるのがリカのやり方だ。
「まったく…なにが別々の時間も必要よ。相変わらずベッタベタに甘やかしてるじゃない」
「なんのことだ?」
「リカよ。理由つけてウサギちゃんと過ごす時間減らしてるの。それなのにちょっと甘えられたら飛んで帰るんだからバカみたい」
何のためにか聞こうとした俺の視線の先でキラリと光るもの。それはリカがいつも愛用してるジッポ。急いで帰り支度をしたから忘れて行ったのだろう。
手を伸ばそうとしたと同時に桃のスマホが鳴る。少しだけ会話が続いてすぐに切れた。
「リカが忘れ物したから週末持ってきてって。ついでに夕飯ご馳走してくれるみたい。
豊に聞けば何を忘れたかわかる…って言ってたけど知ってる?」
きっとリカは俺が避けてしまった拓海君と会い辛いことをわかって、これを置いていったんだろう。理由を付けなければ俺がこのまま時間が過ぎるのを待つってわかっているから。
自分で行動しろって尻を叩いてくれたに違いない。
本当に抜け目がなく、優しくないようで優しい悪友だ。
拓海君に対して勝手に親近感を抱き勝手に拒絶し、その真実を知って複雑なこの気持ち。
それは本人に会ったらわかるのだろうか。
なんだかそれが楽しみなのは俺が自分を少し好きになれたからかもしれない。
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