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いつもなら気になる信号無視も舌打ちしたくなる前の車の急ブレーキも。
調子に乗った隣の車の幅寄せも。
今の俺にはなんてことない。なぜなら、それよりも気になる、気になって仕方ない存在が隣にいるからだ。
「豊さんの車ってなんか落ち着くよなー」
運転する俺に話しかけてくる拓海君。正直、走行中で良かった。視線を合わせずに済むからだ。
平坦な道を全神経を集中させて車を走らせる。少しでも気が緩めが隣が気になってしまう。
「リカちゃん先生の車ってさ、綺麗すぎて緊張しちゃうんだよ。家もダメ。全然落ち着かない」
「そうか」
「夏に温泉行ったじゃん。あの時、俺マヨネーズ零しちゃってさぁ…すっげぇ怒られた」
それはリカなら大いにありえる。リカの綺麗好きは度を越してる。物に対してもだが、何より自分自身に対してもだ。
誰よりも完璧でいようとするが故の軽い潔癖症なのかもしれない。
「一緒にいて落ち着くって俺にとっては豊さんかも」
拓海君の何気ない一言に胸が跳ねた。本人は意識して言っていないだろうが心臓に悪い。
………どうしてだろう。
「歩と慧も落ち着くんだけどさ、なんか違うんだよな。アイツら絶対に俺のことお荷物だと思ってるんだもん」
「それはないだろ」
「えー。思ってるって!周りから見たら俺は2人のオマケみたいなもんだから」
俺がずっと思ってたことと同じ言葉。視界の端に映る拓海君の表情はわからない。
俺と同じように悩んでいるのかもしれない…これは話を聞いてやるべきなのか。
「けどさー、オマケって実は影の主役なんだよ!だって俺、オマケ目当てで本買うもん」
「本?」
「うん。本って立ち読みできるじゃん?でも袋とじは買わなきゃ見れない。だからついつい買っちゃうんだよね」
それは…まさか。まさかするのか?
「あ、バレた?俺エロ本の袋とじ気になっちゃうタイプ。でもアレって書いてあるのと内容全然違うんだよー。わかってんのになんで買っちゃうんだろ」
拓海君らしいような言葉で拓海君らしくない話。そのギャップに思わず殺しきれない笑い声が零れた。それに気付いた拓海君が覗き込むように俺を見る。
俺と同じ一重でも大きな目。まるでどんぐりみたいだ。
「やっと笑った。俺、豊さんが笑い方忘れちゃったのかと思って心配したんだぞ!」
「いくら俺でもそれは………」
「本当は今日も俺行かない方がいいんじゃないかとか、話しかけない方がいいんじゃないかとか…色々考えたんだ」
俺を見る拓海君の目は逸れることがない。やっぱり意志の強い子だとわかる。
「でもさ、俺バカだから他の方法が思いつかないんだよ。誰かに相談したって俺にそれができるとは思わないし…それなら俺がしたいようにするべきだって思った」
「したいように」
「うん。俺は豊さんと話したいし、仲良くしたいし嫌われたくない。そんなの悲しいじゃん。
でも待ってるだけじゃダメだから俺から話しかけていかなきゃって。あ、青になったよ」
赤信号が青に変わり、車が進む。運転に意識を向ける俺の隣で拓海君は話を続ける。
「慧と歩から聞いた。豊さんは真面目だから俺が妊娠させたって思って怒ってるんだよね?」
そうだったはずなんだ。まだ子供なのに大丈夫かって心配して、俺と同じ平凡なのに何してんだって思って。1人置いて行かれた気になってモヤモヤしていた。
誤解だってわかったら、それはそれで自分が情けなくなった。
よく考えれば全て俺の勝手なんだけどな。
「それは誤解だってリカから聞いた。疑って悪い」
「へ?そうなの?」
「あぁ。あれは拓海君のお姉さんだったんだろう?全部俺の勘違いだ」
パチパチと瞬きをして首をひねる。何かを考えた後、答えが見つからないのか拓海君が口を開く。
「じゃあさ…豊さんはなんで今も俺を避けてんの?」
「別に避けてはないけど」
「だって前と違うじゃん。
なんかさぁ、俺のことビビッてない?」
27歳の大人が高校生をビビるなんて…いや、十分ビビってるか。
でも、どうして俺は拓海君をこんなにも意識してしまうんだろう。その答えが見つからない。
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