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「豊さん。ちょっと車止めてよ」
「なんで」
「俺、豊さんと話がしたいんだ」
拓海君らしくない気迫した雰囲気に俺は車を路肩に止める。冷房は利いてるはずなのに窓から指す日差しの強さに溶けてしまいそうだ。
…違うな。強いのは日差しなんかじゃなく、拓海君の視線だ。
「あー!!やっぱり無理!」
伸びをしながら拓海君が叫ぶ。大人っぽくなったかと思ったら次には幼くなる。
コロコロ変わるその様子に俺は付いていけずにハンドルを握る自分の手を見つめた。
園児たちからは『すごい』と褒められる手。うま先生はなんでも作れる魔法使いだって言われる手。
もし俺が魔法使いなら真っ先にこの悶々とした気持ちの正体を暴いてやるのに。
でも俺はただの人間。美馬豊という1人の男だ。
「リカちゃん先生がさ、豊さんが黙ったら言えって言ってたことがあるんだけど」
「リカが?」
俺にとっての魔法使いが託した言葉とは。
「違うから気になることもあれば嫌にもなる。同じだから嫌になることもあれば、その反対はなんだろうな……だったかなー。俺には難しすぎてわかんないや」
頭が働くのをやめた。身体中が待ってくれと叫ぶ。
自分と真逆の桃が気になった歩君。
好きも嫌いも背中合わせの感情だとしたら。
共通点を感じた拓海君を俺は嫌だと思ったことは1度もない。わかってやりたい、悩んだときには話をきいてやりたい……この感情は決して負じゃない。
同じだから嫌になる…その反対は。
「豊さん聞いてる?リカちゃん先生が何言いたいのか俺に教えてよ」
「……嘘だ。そんなのありえない」
「だから何が?また俺だけ仲間外れにすんの?!」
拓海君が俺の身体を揺すぶる。体格差はあれども完全に力の抜けた俺の身体は素直に揺れる。
嘘だ嘘だ。そんなことない。
そんなことあってはならない。
『まだその段階』『鈍感な豊』『時間の問題』リカの言葉が頭を巡る。
俺の腕を掴む小さな手をたどれば小柄な彼の肩があって、細い首があって、小さな顔にある大きな目が俺を映している。
拓海君が俺を見つめ俺に触れている。
「………っつ!」
まるで爆発したんじゃないかってぐらいに顔が一気に火照り、俺はハンドルに突っ伏した。
心臓が痛い。バクバクいって苦しい。
触れられたところが熱くて、もどかしくて、やっぱり苦しい。
「豊さん?!」
「ちょっと待ってくれ。これは駄目だ。
俺までって…俺までは駄目だろ」
「だから何が?!ねぇ何がなの?!」
駄目だと繰り返す俺と、そんな俺を揺さぶる拓海君の攻防は続く。
突っ伏したまま顔を横に向ければ大きな目がまだ俺を見ていた。
大きな目。真っすぐで強い目。たくさん笑って怒って、驚いて幸せそうに輝く拓海君の……拓海君だけの色だ。
「今は見るな」
その瞳を手のひらですっぽり隠してしまう。無くなると思った輝きはそれでも消えなくて、俺の脈拍も鼓動も落ち着かない。
「なんで?もうわかんないことばっかだよ!!」
「わからない方がいいこともあるんだよ」
「嫌だってば!俺は知りたいの!!ねぇねぇ教えてよ!」
「だから今は駄目だって。本当、今は勘弁してくれ…」
手を退けようとしていた拓海君は諦め、唇を尖らせて拗ねる。
きっと手のひらで隠した向こうで恨めしそうにしているんだろう。
拓海君が隣にいる。それだけで俺はこんなにもドキドキしてソワソワして……
そして笑っている。
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