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しばらくして落ち着いた俺は黙ったまま車を走らせた。
でもこれは気まずい沈黙じゃない。気まずいと言えば気まずいけれど、心は嬉しい。
拓海君の家まで着けば中から女の子が出てきた。小さい女の子と拓海君より少し年上の子。きっとこの子が聡海さん…俺が拓海君の彼女だと勘違いした子だろう。
「たっくんおかえりー!」
「お帰り。すみません、送っていただいて」
開けた窓から覗く顔は拓海君に似ている。でもさっきのドキドキはない。
それが俺の気持ちを答えに導いていく。
「暑いのに外にいて身体は大丈夫なんですか」
「え?あ、えぇ。たっくんから聞いてるんですね。最近は落ち着いてきてるんです。たっくんが全部してくれるからそのお陰かも」
俺が褒められたわけじゃないのに心がポカポカする。こうして見えないところでも幸せを運んでくれる彼の存在は大きい。
俺の中で感じてたモノが巡り巡って形を変え、答えを見つけた。
俺だけの、俺にしかない俺が見つけた『特別』な感情。
車から降り、家へと向かう小さな背中に俺は呼びかける。
「拓海君」
振り返った君はいつも通りの笑顔でいつも通り俺を見る。
「なにー?」
「今度…修学旅行から帰ったら焼肉でも行こうか」
好物を出せば頷いて声を上げて喜ぶ君。
それを見る俺も全身で喜びを感じた。
「わかった!お土産買って帰るから待ってて」
「あぁ。問題は起こさないこと、ケンカはしないこと、あとそれから水はちゃんと買ったやつを飲んで、それからえっと……」
「もう!!わかってるって!」
笑いながら怒るなんて器用なことをしながら君は俺に魔法をかける。
「豊さん!なるようにする!!
ちゃんと帰ってくるから待っててよ」
なるようにする。君が言う魔法の言葉。
なんとかしなければ…と思ってしまう俺と君は少し違うけれど。
拓海君は拓海君で俺は俺。
似ているようで違うからこそ惹かれる。わかりたいと思う。
別の人間だから俺は君に恋をした。
君に好きになってもらう前に俺は自分をもっと好きにならないといけない。
前に向かって突き進む君に恥じない自分になりたい。
俺は君の『特別』になりたい。
降り注ぐ太陽の光さえ弾いてしまうような熱い思い。
こうして俺の不器用な恋が始まった。
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