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「まったく…嫌なことから逃げ出す癖は母親譲りか」
ウサギが出て行った扉を見ながら親父さんが呟いた。
俺は追いかけることなくその扉が閉まるのを見ていただけ。投げつけられたプリントが床に転がっている。
拾って広げればそこにはウサギの字で書かれた志望大学の名前がある。
家から近くてウサギでもいけるだろう大学。
言い方は悪いが金さえ払えばいける大学。
別にここを選んだことに反対はしない。
それがウサギの本当の意思でちゃんとした理由があるなら俺は受け入れるし応援もする。
「本人がいない懇談は成り立たないかな」
「そう、ですね」
目を伏せた俺に親父さんは立ち上がるでもなく座ったまま動こうとしない。
「お帰りいただいて結構ですよ」
退室を促せば親父さんは自分の腕時計を掲げ、俺に見せた。
「まだ時間は残ってるからね。少し君と話がしたい」
挑むような視線。
「それは僕にですか?それとも俺にですか?」
「もちろんプライベートの獅子原君にだ。
とりあえず、まず先に報告からしないといけない」
立ち上がった親父さんが頭を下げる。
入ってきた時よりも深く丁寧なお辞儀だった。
「無事に退院できた。君があの時いてくれて良かったと心から思うよ…改めて礼を言わせてほしい。
私の妻を助けてくれてありがとう。」
「それは何よりです。
ご静養くださいとお伝えいただけますか」
「直接本人に言ってくれたまえ。あれも君に会いたがっている。………また慧の話を聞かせてほしい、と」
ウサギの話をする度に喜ぶ彼女。成績の話をすると怒ったような、心配したような素振りを見せるのは教師の性だろう。
「ご勘弁を。また浮気を疑われるのは懲り懲りです」
「浮気…」
「全てお話した通りですから」
俺の言葉に親父さんは眉間に皺を寄せ黙り込む。
陰ながら見守ってきた息子が男、しかも担任の教師とそういう関係だなんて真面目なこの人には理解し難いだろう。
俺とウサギの関係をこの人は知っている。
それは俺が話したからだ。
今までのこともこれからのことも全てを。
幾度となく家に通い、何度も話をして決めた2人だけの約束が俺とこの人にはある。
「約束は約束です」
「わかってる」
「俺は教師として慧を導く。ちゃんと卒業させてアイツなりの答えを見つけさせる」
恋人ではなく教師として交わした約束の内容。
慧には自分で悩み自分で選び、そして自分の足で進ませる。
アイツの選択肢に俺の存在は許されない。
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