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人混みをうまくすり抜け、繁華街を出た俺たちはリカちゃんの先導で裏路地に入る。そこを通って見えたのは落ち着いた街並み。
「おいで」
そう言われて隣に並ぶか少し離れて歩くか悩む。見られちゃダメだってわかっるからだ。
悩んで少し離れたところで止まった俺にリカちゃんが手を差し出す。
「なにこの微妙な距離」
「だって…見られるとマズいだろ」
「ちょっと離れてるし大丈夫だって。誰もこんなとこ来ようとしないから」
たしかに周りには学生っぽいのはいない。というより人があんまり歩いていない。
「今日は平日だし、ここは知る人ぞ知るって感じの道だからな」
「なんでそれをお前が知ってんだよ」
「昔来たことがある。お前を連れて行きたい所があるから来て」
出されたままの手を見る。これは手を繋ごうってことなのか?それ以外に思いつかなくて、そっと自分の手を伸ばした。
掴んだリカちゃんが俺を引き寄せる。
「恥ずかしい?」
「さすがに堂々としすぎだと思うんだけど」
「こっちは同性愛に寛容だからな。そんなに目立たないと思う」
同性どうこうじゃなくて、お前が目立ってんだよ!と言ってやろうかと思った。でもそれを言わないのはせっかくリカちゃんが時間を作ってくれて、こうやってコソコソしなくていい場所を選んでくれたからだ。
どんどん道を歩いて進む。
時々「懐かしい」とか「これまだあんのかよ」とリカちゃんは笑う。
留学先はこの街じゃなかったはずなのにどうしてこんなに詳しいんだろう。
「こっちに留学してるときにヒッチハイクして回ったことがあるんだよ。その時に知り合った爺さんがいて、この先で店やってるんだ」
「ヒッチハイク?え、お前が?」
「あの頃は自分がなんの為に生きてるのか、何したらいいのかわからなかったから」
そう言ったリカちゃんに返す言葉が見つからない。俺を見たリカちゃんが繋いだ手に力を込めた。
「今はもう悩まないけどな。その爺さんが俺のこと心配しててさ、ついでだからお前連れて行こうと思って」
「それってリカちゃんの恩人ってヤツ?」
初めて聞く話だった。修学旅行の話をした時にも全くされなかったのをいきなり言われ、少し緊張してしまう。
『恩人』それに少し考えてリカちゃんが首を振る。
「そんなイイもんじゃない。散々こき使われて、すげぇ扱かれたから。
今回のコレだってどんだけ冷やかされたか…」
「コレ?俺を連れて行くこと?」
「いや、まあ行けばわかるよ。そこの角曲がったらすぐだから」
言われた角を曲がった右手にこじんまりとした店のような家のような…どちらかわかんない建物があった。その扉にリカちゃんが躊躇うことなく手をかける。
ギギッと年代を感じさせる音と共に開いた扉。
中には誰もいなくて木の棚とテーブル、小さなショーウィンドウしかない。
「何も変わってねぇな。相変わらずボロくて地味」
「久しぶりに会っての感想がそれか。お前こそ相変わらずだな」
声の聞こえた先。奥の棚の影から現れた人物。
黒いエプロン姿がまず見えて、視線を上げていけば無精髭、そして目尻に皺がいっぱいの優しそうな人。
これがリカちゃんが俺を会わせたかった人。
「久しぶり、爺さん」
「久しぶりどころかお前の顔を忘れそうだったぞ。その嫌味な顔をな」
「やっぱりアンタは変わらねぇな」
お爺さんの視線が俺に向く。ドスドスと足音を立て近づいてきたお爺さんが俺の手を取った。
目尻の皺が更に増え、満面の笑みで言う。
「君がリカの子猫ちゃんか!」
「……は?」
「だからウサギだって言っただろ」
「どう見ても猫じゃないか!いいね、お兄さんは犬より猫派だから大歓迎だよ」
「黙れジジイ。てめぇはお兄さんって歳じゃねぇだろ。俺のモンに触んじゃねぇよ」
「握手は挨拶の基本だぞ。その口の悪さと偉そうなところも全く変わらんな」
外人のくせに日本語ペラペラで俺のことを猫と呼び、しかもリカちゃんを言い負かす人物。
「ようこそ子猫ちゃん!」
「だからウサギだってば。ってか抱き付くなよ」
謎の爺さんに抱きしめられ、それを引き離そうとするリカちゃんに引っ張られ……一体何がなんなのかわからない。
わからないけど2人につられて俺も笑ってしまう。
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