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シルバーの金属に埋め込まれた石。透明を挟むようにして黒の石が輝く。
「まったく…久しぶりに連絡してきたかと思ったら無理な注文を言いよって」
そうぼやく爺さんだけれど、その顔はすげぇ嬉しそうだ。
ゆっくりと持ち上げたソレを俺の腕に巻き、長さを測る。印を付けて外し、今度は隣に置いた機械に乗せた。真剣な目で向き合いながら慎重に切っていく。
「私には子供がいなくてね。若い頃はよく飲み歩いて悪さをしたもんだ。日本語だってその時に知り合った彼女に教わったんだよ」
突然話し出した爺さん。邪魔をしたくなくて黙っている俺に爺さんは続ける。
「いい加減な私に妻もいってしまって長い間1人だった」
「奥さん出て行ったのか?」
「そうだね。私を置いていってしまったよ」
俺と同じだ。同じように置いて行かれたことに親近感が湧く。
「そんな時にいきなり現れたのがリカだった。初めて会った時のあいつは、それはもう生意気でねぇ…いや、今も生意気なのは変わらないけれど」
手を止めた爺さんがまたソレを俺に宛がう。頷いて満足そうに、今度は反対側を切り始めた。
「何もいらないって言いたげな目がどうしても気になって声をかけたよ。初めは突っぱねられていたんだけど次第に話をしてくれるようになった。なんともまぁ厄介なやつを拾ってしまったと後悔した」
金属と金属がぶつかる音が響く。先を落とした断面に爺さんはやすりをかけていく。
やっぱり真剣な目だった。
「本当はね、日本に帰したくなかった。また会った頃のリカに戻るんじゃないかと心配する私にリカが言ったんだ」
「なんて?」
爺さんがやすりを置き、俺を見た。その青い瞳が全てを見透かしているような気がする。
「今度ここに来るときは自分の大切なものを持ってくるって。金も物も、自分ですらいらないって言っていたリカがね」
爺さんの鋭く真剣だった目が柔らかくなっていく。
「私はそれを何年も待ったよ。こうやって小さな店をしながらずっとね。仲間と飲んで騒いでしている時も眠る前も朝起きた時も。いつかリカがやってくるのを待っていた。爺さん待たせたなって言ってくれるのをずっと待っていた」
青い瞳が完全に見えなくなって瞼を閉じた爺さんが鼻をすする。次に開いたとき、それは透明の膜を張っていた。
「やっとこの日が来た。2人を見た時にすぐわかったよ。君はリカの大切な人、リカは君の為に生きてるんだってね」
「それって」
リカちゃんがよく言う言葉『お前の為に生きている』
キザな言葉だと思っていたそれを爺さんも使う。
やすりをかけ終わり、最後の仕上げに金具をとりつけた爺さんが俺の手に巻こうとしてやめる。
「これは私が付けない方がいいね」
「なんでブレスレット?」
俺のサイズに合わせて作られたブレスレット。石が3つ埋め込まれたソレを軽く撫でた爺さんが頷いた。
「ただのブレスレットじゃない。これは世界で1つだけの特別なもの」
「どういう意味?」
「この石はね、リカが見つけた石だからね。冗談で連れて行ってまさか掘り当てるとは思わなかったけど…本当に不思議な男だ」
箱にブレスレットを直した爺さんが俺を見て微笑む。
「知りたいかい?どうしてリカが君にこれを贈るのか、このブレスレットの意味はなんなのか」
俺はそれに頷いた。
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