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「と、思ったが秘密。ここで私が言ったらあいつは怒るだろうからね」
さすがリカちゃんの恩人。爺さんはニヤニヤしながらも教えてくれない。けど1つだけヒントはくれた。
「この石はオパール。この国ではメジャーな石なんだけど子猫ちゃんも名前ぐらいは知ってるだろう?」
男の俺でも名前は聞いたことがある。それが高価なのかは知らないけれど、見た感じでは高そうに思った。
「リカが掘り当てたのはこの透明の方ですごく珍しい。そんな物を売るでもなく「いつかこれを贈る相手を見つけた時に使ってくれ」と預けて行ってねぇ…。正直そんな日が来るのかと思ったんだが」
そこで言葉を切って爺さんは嬉しそうに笑う。
「本当に連れて来るとはな!しかもこんなに可愛らしくて魅力的な…まさか男の子を」
俺の肩を力いっぱい叩いて喜びを表現する。
爺さんから箱を受け取れば代わりに握手を求められた。ギュっと俺の手を握った爺さんが抱きしめてくる。びっくりして後ずさる俺に爺さんは囁く。
「相手を黒にしたのも、その配置も全部リカの指示通りだよ。意味は本人から聞くといい」
肌に当たる髭がチクチクして痛いけれど俺は黙ったまま頷いた。爺さんが「いい子だね」と零す。
「あいつは秘密が多いし肝心なことは何も言わない。慧を不安にさせてばかりだろうね」
「俺の名前…なんで」
「そりゃあ名前がわからなきゃ彫れんからな」
爺さんが指をさす場所には俺の名前が彫られていた。
身体を離した爺さんが俺に頭を下げる。そして言った。
「私の自慢の息子を頼む。偉そうで勝手なやつだけれど嘘のつけない優しい子だから」
顔を上げた爺さんの目から涙が零れた。
ずっとずっとこの日を待って、やっと現れたのが男の俺で。それでも祝福してくれる爺さん。
子供がいないって言っていた爺さんの自慢の息子からのプレゼント。
それを大事に抱え、俺たちはアトリエから出た。
「リカちゃん」
窓際で外を眺めていたリカちゃんが振り返る。黒髪に陽の光がキラキラ光ってすげぇ眩しい。
「おかえり。何もされなかったか?」
そう聞いたリカちゃんに俺が答えるよりも早く爺さんが声を上げた。
「失礼な!ハグで我慢した私に礼を言えバカ」
「ちゃっかりしてんじゃねぇかよ。ったく…こっちにおいで」
手招きされて行けばその視線が俺の持っている箱へ。リカちゃんが爺さんを見れば顎で箱を指して言う。
「それを付けるのはお前の役目だろう」
「確かに」
俺から小箱を受け取ったリカちゃんが箱をポケットにしまった。
「用も済んだし2人きりになれる所に行こうか」
俺の肩を抱き、微笑むリカちゃんを俺は直視できない。
時間を作って俺を自分の特別な人に紹介してくれて。世界で1つだけのプレゼントを用意してくれていて。
そしてソレにはリカちゃんからの特別なメッセージが込められている。
「ふん…早く行け。私はこう見えて忙しいんだから」
「はいはい。今度何か礼を送るよ」
「いらん。私はお前から預かっていたものを返しただけだ。それより酒でも奢れ」
「俺が酒に弱いのあんたも知ってんだろ…」
爺さんに見送られて俺たちは店を後にする。来た道と今度は反対側へ歩いていく。
その後ろ…俺たちが店を出てしばらく経っても爺さんは店の扉の前に立ったままだ。
「リカちゃん、爺さんまだこっち見てるけど」
「いいよ。会おうと思えば会える。今度はゆっくり時間作って来たらいい」
日本語が上手でいい加減そうに見えて、それでいて息子思いの爺さん。
今度会った時は爺さんの好きな酒を飲みながらたくさん話を聞きたい。
その時はリカちゃんが酔っても許してやろうと思った。
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