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日本に帰るその日の朝まで爺さんは相変わらずだった。毎晩のように飲み歩いて眠る前に奥さんの指輪を磨く。
誰に何を言われても、どう思われても爺さんは心の中で奥さんだけを愛し続け、そしてその為に生き続ける。
それが爺さんの生きる理由だからだ。
俺はまだそれを見つけていない。もしかしたらこの先も見つかるとは限らない。でも今は自分のすべきことをしようと決めた。
俺が奪ってしまった星一の願いを叶えて、星一の頼みを聞いて。迷惑をかけた桃と豊にも何か返さないといけない。やる事はまだまだたくさんある。
全て終わって、それでも見つけられなかったら……それはその時考えればいいんじゃないだろうか。そう思えるようになったから俺は爺さんに別れを告げ、日本へと帰ってきた。
『これからは俺の為に生きて』
そして君と出会った。
*
日本から離れたかった理由、爺さんとの出会い、爺さんと奥さんのことだけを慧に話す。肝心なことはまだ言っていない。
俺が真意を伝えないまま、いつもお前の為に生きるって言うのはその言葉の本当の意味を言えないから。
きっと今の慧じゃ受け止められない。言葉に舞い上がって本来の意味も重みもわからないだろう。
だから今はまだ伝えられない。伝える日が来るかどうかは慧次第だ。
近づけば近づくほど好きになる。弱いところを見て守ってやりたいと思い、不器用なところを見てわかってやりたいと思う。楽しい思い出を幸せな時間を与えてやりたい。
日常の中にいつもお前はいて、何をしていてもどこにいても頭の片隅で俺を呼ぶ。
守る為、寄り添う為、笑顔にさせる為、幸せだと思える日々をお前に贈る為。
そう…俺は君を愛する為に、ただその為に生きている。
何もなかった空っぽの俺に理由をくれた。
このまま消えてしまえばいいと思っていた俺に明日を願う気持ちをくれた。
そんな君を愛したい。
俺はこれから先の人生ずっと君を愛していきたい。
生きたい。君の為に、そして自分の為に生きたい。
小箱の蓋を開ける。言葉でも、態度でも思い出でもなく形として何かを残したいと思うのはきっと俺が弱いからだ。2人で過ごした思い出を忘れてほしくない。
「おいで」
呼べば慧はゆっくりと俺の前に立った。その細い手首を取って手の甲に口付ける。
この手はこの先たくさんのものに触れ、慧だけの未来を掴み、そして不必要なものを手放す。
いっそ無くなってしまえばいいのにと思う黒い気持ちを心の奥に封じ、鍵をかけて俺は微笑む。
「頑張ってる慧君に俺からのプレゼント」
手首に巻かれたソレを見て慧は唇を噛んだ。嬉しいのを隠そうとする素直じゃない君がとても愛しい。
愛しくて愛しくて今この瞬間に時間が止まってしまえばいいとさえ思う。
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