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「………」
「…………」
「いや、何か話そうよ。なんで睨み合ってんの」
向かいのソファに座る父さんが俺を睨んでくる。前まではそれにビビっていたけど今は俺も睨み返せるようになった。なんでか怖いって感覚がなくなったみたいだ。
「睨んでない。睨んでるのは慧の方だ」
「俺じゃねぇし。睨まれてるから睨み返してんだよ」
「ほら。睨んでるじゃないか」
「だからそれを睨み合ってるって言うんだよ…」
テーブルの上には出された紅茶と俺が持ってきた土産のチョコレート。旅行中に試食して美味かったソレに手を伸ばす。
ピシャリとその手が払われ、俺はソイツをさらに睨みつけた。
「なにすんだよ!」
「渡した相手より先に食べるバカがどこにいる」
「別にいいだろ!!」
甘いものが苦手な父さんはどうせ食べない。それなら俺が食べたって問題ないはずなのに!
唸る俺の目の前でチョコレートを1つ摘んだ父さんが口放りこんだ。頬が緩んで2つめに手を伸ばす。
「父さんはチョコレートが大好きなんだよ」
「大好きではない」
「酒のつまみがチョコレートの人が何言ってるんですか」
口をモグモグさせつつ、そっぽを向いた父さんの耳は赤い。そんなんじゃ認めてるようなもんだ。
まさか父さんが俺と同じでチョコレート好きだったって知って驚く俺に恒兄ちゃんは微笑む。
「慧もチョコレートが好きらしいね」
「なんでそれを…」
「獅子原さんから聞いた。いつもチョコレートばっかり食べてるって。でも虫歯になるのが怖いから、やたらと歯磨きが長いって話も」
俺の知らないところで余計な話をベラベラと喋りやがった男に心の中で文句を言った。どうせまたニヤニヤしながら偉そうに話したに違いない。
ってかまだ恒兄ちゃんとリカちゃんが連絡とっていたことすら知らなかった。きっと俺の話をしてたんだろうけど、何を話したのか気になる。
けど今のリカちゃんには聞けない。
また暗くなってきて俯いていると、父さんが恒兄ちゃんに話しかけた。
「恒二、悪いけど会社に忘れ物をしたから取りに行ってくれ」
「忘れ物ですか?わざわざ取りに行かないといけないほどの?」
「それがないと会議に出れん」
ここで恒兄ちゃんがいなくなると俺が困る。父さんと2人きりは嫌だ。それなら俺も駅まで乗せていってほしいと言おうとして止まる。
その理由は先に父さんが口を開いたからだ。
「それまで慧の相手は私がしておく」
「はぁ?!」
マジかよ。やめてくれよ!!何を血迷ったのか、俺を帰さないつもりの父さんは続ける。
「安心しろ。若い頃は接待が上手いと評判だったから」
「子供相手に接待……とりあえず喧嘩だけはやめてくださいね」
「任せろ」
何を任せるのか、どうして任せるのかわからないまま恒兄ちゃんは部屋を出て行ってしまった。
目の前には顰めっ面のジジイが1人。
頼むから黙っててくれと願う俺に、ジジイ…いやクソジジイが口を開く。
「獅子原君と別れたのか?」
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