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俺はリカちゃんに少し離れようって言われただけだ。お互い嫌になったんじゃない。リカちゃんは俺様で何考えてるか教えてくれないけど簡単に人を見捨てたりはしない。
「別れてなんかない」
「なんか…な。でも揉めてるんだろう?また何かやったのか?」
「俺は悪くない!」
まるで俺が原因みたいに言われて言い返す。あの女さえ現れなかったら、こんな事にはなってないのに!
俺の周りであの女の居場所を知ってそうな人は父さんしかいない。リカちゃんにあの女の居場所を言ったのは間違いなく父さんだろう。
「なんでリカちゃんにあの女のこと言ったんだよ」
「あの女って言い方はよしなさい。お前の母さんだ」
「あんなの母親なんかじゃねぇよ!!」
どこに…どこに小さい子供置いて出ていく母親がいるんだよ。買い物行ってくるって嘘ついて、いい子で待っててって笑って帰ってこなかったくせに。
俺がどんな気持ちであの女を待ってたかなんて誰にもわからない。
「獅子原君は本当に優しいな」
父さんが意味のわからないことを言う。どうしてあの女の話からリカちゃんに飛ぶのか…どうしてリカちゃんが優しいのか。
何も答えない俺に父さんはマグカップの縁をなぞりながらまた話し始めた。
「優しくて厳しい。いい先生じゃないか」
「意味わかんねぇ」
「そしていい恋人じゃないか」
そんなこと言われたら認めてくれてんのかって思っちゃう。自分の息子が男と付き合ってるのを、この父さんが認めるなんて嘘だ。
「私はお前には厳しくしかできなかった。きっとお前が頑固なのはその所為もあるのかもしれん」
「俺は頑固じゃねぇし」
頑固なのはリカちゃんと父さんだ。
「お前を甘やかしてやれるのは星一だけだと思ってたんだけどな…それ以上が現れるなんて」
リカちゃんより星兄ちゃんの方が絶対に優しい。星兄ちゃんは俺に苦手なものを無理に食べさせないし怒らないし意地悪しない。
離れようなんて絶対言わない。
「その顔は不満か?」
「不満っつーか…父さんの言ってることがわかんないんだけど」
「たとえば兄弟なら多少喧嘩したとしても仲直りできる。腐っても兄弟、簡単に切れることは無いだろう。
それが恋人となれば話は別だ。どちらかが嫌になったらすぐに終わる」
終わる…ってのがちょっと胸に突っかかるけど。俺は黙って父さんの話を聞く。
「嫌な事はさせなければいい。わざわざ嫌がるのをわかっていて、お前を怒らせてまで母さんと会わせようとした彼は優しい。
お前の進路にしたって最後まで何も言われなかっただろう?間違っても否定なんてされてないはずだ」
確かに俺はリカちゃんにダメだとは言われてない。ちゃんと考えろとは言われたけど、それでも話は聞いてくれる。
そういえば最近のリカちゃんは俺が決めたことにあまりダメって言わない。無理なことは無理、やっちゃダメな事以外はあまり言われていない覚えがある。
初めて勝手にバイトした時は言われてたのに。今じゃそれは無くて、リカちゃんは最後は「仕方ないな」って笑ってくれるのが当たり前になっていた。
「為に生きる……その通りだ」
またそのセリフだ。リカちゃんがよく言う言葉を父さんも口にする。
『俺はお前の為に生きてる』
俺から離れていくくせに、そんな嘘を言うんだ。
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