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「またそれかよ。みんなして同じことばっかり言って…誰も教えてくんねぇくせに」
リカちゃんも爺さんも、その言葉の意味までは絶対に教えてくれない。笑ってごまかすだけだ。
「たいした意味なんてないくせに」
「本人から聞いたことないのか?」
無いから困ってんだよ。父さんを睨む。
「てっきり知っていての我儘かと…」
「俺はワガママじゃねぇ」
ハァと溜め息をついた父さんが額を押さえた。すぐにまた俺を見る。
「慧にそこまで1人で考えさせるのは無理だ。それはさすがにスパルタ過ぎる」
「さり気なくバカにしてんじゃねぇよ」
「お前じゃ一生考えてもわからないだろうからな。教えてやる」
やっと知れる。リカちゃんがいつも言ってた寒いセリフの本当の意味を、どんな気持ちでソレを俺に言ってたかを。
「笑ってる顔が好きだからその為に何でもしてあげたくなって、辛いことも経験してほしいからその為に嫌な事もさせる。だから優しくするのも厳しくするのもお前の為」
「俺の為ってなに」
「母さんのことは慧には言わない方がいいって止めたんだがな。それでも言った彼は優しい」
「だからなんでだよ。無理やり会わせようとすることのどこが優しいんだよ?!」
それを嫌がったら離れようって言われたんだ。優しさの欠片も無いじゃないか…父さんは本当に何もわかってない。
そう思ったのに真実は違う。
「だって彼ならお前を騙して母さんと会わせることなんて簡単だから。会わせようと思えばすぐにできたはずだ」
「それは……そうだけど」
リカちゃんなら俺を連れ出すのも、どこかであの女と待ち合わせるのもできた。いちいち俺に話さなくても良かった。強引にすれば良かったんだ。
「お前に嫌がられるのがわかっててもそれをしないのは彼なりの優しさだと思うけどな」
「…ただの嫌がらせだろ」
「獅子原君はお前に自分で選んで自信を付けてほしいんだろうな。嫌な事から逃げなかった、立ち向かった自信を。
それはお前の気付かないところでいつか役に立つ。辛い事と向き合える人は強いことを、彼は身をもって経験しているから」
過去から逃げてたって言ってたリカちゃんだから知ってること。それを自分で選んで立ち向かうことの大切さを教えようとしてくれてたとしたら…
「リカちゃんには関係ない」俺が言ってしまった言葉をどんな気持ちで聞いてたのか。
「ここに来てお前の為に、お前が後ろめたい思いをしない為に私に頭を下げて。お前が自分の足で前に進んでほしいから、その為に嫌な役を自分から買って出るのは優しくないか?」
これがリカちゃんじゃなく、父さんや恒兄ちゃんに言われたなら俺はもっと怒ってた。きっと父さんたちのことをまた嫌いになってたと思う。
リカちゃんだから悩んで、リカちゃんに言われたから考えて…それでも会いたくないってなる。
「嫌われても幻滅されても、怒鳴られても何をされても慧の為になるならいい。お前が笑って過ごせるならどんな悪者にでも喜んでなる…ほら、優しいだろう?」
「そんなの言われなきゃわかんない」
今日だけで何回わからないって言ったか覚えてない。またそれを繰り返す俺に父さんは厳しく言い放つ。
「わからないんじゃない。わかろうとしていないだけだ。
甘えるのが下手なお前のことを知ってる彼にしか出来ない…でもお前はそれをわかろうとしない。
いつまでも子供っぽい駄々をこねるのはやめなさい」
初めて父さんが父親らしく見えた。
そして俺はやっと気付く。
リカちゃんは優しくて厳しくて、それでいていつも俺のことを考えてくれてる。
いつもリカちゃんを傷付けていたのは俺だった。
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